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AI時代の事業開発から、ハイパースペクトルインフラ診断、伴走型共同養育支援まで。第5回「リーグアカデミー」とセッションのリアル ― 2026年度 第5回リーグアカデミーレポート―

グローバル生存戦略から、子どものネット防犯、“宇宙開発“発の暗黙知可視化まで。

2026年10月2日、ICTスタートアップリーグにおいて、採択スタートアップの事業成長を多角的に支援する第5回「リーグアカデミー」が開催された。本プログラムは、起業家が実務で活用できる実践的な知識や戦略を学ぶことを目的としている。

リーグアカデミーは大きく2部構成となっており、第1部の講演では「ICTプラットフォームで事業成長を積み上げる第1歩とは」をテーマに、AI CROSS株式会社 代表取締役CEO 原田典子 氏が登壇した。また、続く第2部の「バリューアップセッション」では、ハイパースペクトル画像を用いたインフラ診断を展開する株式会社In-Spectorと、離婚後の共同養育を支援する株式会社りむすびの2社が登壇し、有識者と活発な意見交換を行った。

本稿では、第1部の講演によるプラットフォーム事業とAI時代の生存戦略の要点と、第2部のバリューアップセッションにおける有識者と採択スタートアップとの本質的な議論の様子を詳細にレポートする。

第1部:講演「ICTプラットフォームで事業成長を積み上げる第1歩とは」

AI CROSS株式会社 代表取締役CEO 原田典子氏 AI CROSS株式会社 代表取締役CEO 原田典子氏

セッションの前半は、AI CROSS株式会社 代表取締役CEO 原田典子氏の講演からスタートした。原田氏は、海外でのマイノリティとしての経験や、ワインビジネスからIT業界への転身、そしてSMS配信プラットフォームでの成功とAI時代における事業開発のあり方について語った。

原体験と「タイムマシン経営」が導いたSMSプラットフォームの成功

原田氏は、幼少期から海外を転々とし、常にマイノリティとして戦ってきた経験が自身の起業家としての原点にあると語った。アメリカでの就業経験から「タイムマシン経営」の視点を持ち、海外で急速に普及していたSMS(ショートメッセージサービス)ビジネスに着目。日本市場での成長性を確信し、SMS配信プラットフォーム事業を立ち上げた。

当時、日本ではまだSMSのビジネス利用は一般的ではなかったが、通信キャリアとの厳格な要件や接続基準をクリアすることで高い参入障壁を築き、ブルーオーシャンを開拓した。この初期の泥臭いインフラ構築と、通信の秘密などの法規制を遵守する真摯な姿勢が、大手企業からの信頼獲得につながり、現在の強固な事業基盤を形成しているという。

AI時代のプラットフォーム戦略:RCSと生成AIの掛け合わせ

続いて、今後の事業展開の軸として「RCS(Rich Communication Services)」の可能性について言及された。RCSは、従来のテキスト中心のSMSを進化させ、画像や動画などのリッチコンテンツを送信できる次世代のメッセージングサービスである。原田氏は、このRCSと生成AIを掛け合わせることで、顧客の属性や行動履歴に基づいた最適なメッセージを自動生成・配信することが可能になり、プラットフォームの価値を飛躍的に高められると展望を語った。

AI時代のスタートアップサバイバル術:原体験と「やりきる力」

講演の後半では、AIの進化によってプロダクト開発のハードルが劇的に下がった現代における、スタートアップの戦い方について議論が交わされた。原田氏は、誰もが容易にサービスを生み出せる時代においては、単一のプロダクトで長期的に勝ち残ることは難しくなっていると指摘。市場のニーズを的確に捉え、短命であっても次々と新しいサービスを出し続けるアジリティ(機敏性)と、顧客の細かな課題に徹底的に向き合う姿勢、そして何より起業家自身の「絶対にやりきる」という強い信念が、競争優位性を生み出す源泉になると力説した。

【第1部 講演のまとめ】

第1部の講演では、自身の経験に基づく「タイムマシン経営」の視点からインフラを構築し、AI技術を取り入れながら事業をアップデートさせ続ける原田氏の戦略が示された。また、技術のコモディティ化が進むAI時代においてこそ、起業家の原体験と信念、そして顧客の細かな課題に徹底的に向き合う姿勢が重要であることが強調された。参加した起業家たちにとって、事業の軸をどこに置き、どのように成長させていくべきかを考える上で、非常に実践的な指針となるセッションであった。

第2部:バリューアップセッション 登壇スタートアップの事業展望とフィードバック

第1部の講演に続き、第2部では「バリューアップセッション」が行われた。本セッションには、先端技術を用いたインフラ診断と、社会的な家族課題の解決という全く異なる領域に挑む採択者2社が登壇し、有識者との間で多角的な議論が交わされた。

ハイパースペクトル画像でインフラ診断の常識を変える:株式会社In-Spector

株式会社In-Spector 発起人 李在原氏 株式会社In-Spector 発起人 李在原氏

最初に登壇したのは、ハイパースペクトル画像を用いたインフラ診断サービスを展開する株式会社In-Spector 発起人 李在原氏である。同社には、弁護士資格を持ち、スタートアップの事業戦略支援にも精通したキャディが伴走している。

ハイパースペクトル画像を用いた革新的なインフラ診断技術

株式会社In-Spectorは、人間の目には見えない光の波長(ハイパースペクトル)を捉える特殊なカメラと解析技術を用いて、コンクリート構造物の劣化具合などを診断するサービスを開発している。従来のインフラ点検は目視や打音検査などのアナログな手法に頼る部分が大きかったが、同社の技術を活用することで、より高精度かつ効率的で客観的なインフラ診断が可能になるという。李氏は、この技術を用いて「見えないものを可視化」し、インフラメンテナンスの常識を変えていくというビジョンを語った。

BtoB営業における「前例主義」の壁

革新的な技術を持つ一方で、同社は現在、事業拡大に向けたBtoBの営業活動において大きな壁に直面している。インフラ業界は社会の安全を担う特性上、非常に保守的であり、新しい技術に対する理解を得ることや、前例のない仕組みを導入することに対するハードルが高いという。大手測定機器メーカーやゼネコンなどへアプローチを行い、実証実験(PoC)までは進むものの、そこから先への進展に難航している現状が率直に語られた。

本契約に向けたハードルと新たなターゲットの模索

また、実用化に向けた具体的なハードルとして「初期費用の高さ」も挙げられた。ハイパースペクトルカメラ(センサー)自体が高額であるため、クライアントに機器の購入を前提とした提案を行うと、本契約に至りにくいというビジネスモデル上の課題がある。この状況を打破するため、李氏は設備工事や素材会社など、インフラ以外の新たな業界への開拓も並行して進めており、事業をスケールさせるための最適なターゲット市場や営業戦略について、有識者へアドバイスを求めた。

有識者とのやり取り:ターゲットの転換と「自分ごと化」する営業戦略

原田典子氏(左:AI CROSS株式会社)、灰⽥俊也氏(右:選考評価委員) 原田典子氏(左:AI CROSS株式会社)、灰⽥俊也氏(右:選考評価委員)

同社の課題に対し、有識者からは、技術の「売り方」と「見せ方」の根本的な見直しを迫るフィードバックが行われた。

まず、技術先行型の説明ではなく、「誰の・どのような課題を・いくらで解決できるのか」というサービスのパッケージを明確に提示しなければ、顧客には伝わらないとの指摘がなされた。高額なセンサー代がネックになっているのであれば、機器の販売ではなく、診断結果そのものをサービスとして提供するモデルの検討が求められた。

さらに、大手インフラ企業へのアプローチに固執せず、より切実な課題を抱える市場へのピボット(方向転換)が強力に提案された。具体的には、全国で社会問題化しているマンションの大規模修繕市場である。管理組合が不透明な修繕計画や費用の妥当性に悩む中、「本当に今、修繕が必要なのか」を客観的に診断できれば、膨大な潜在ニーズを掘り起こすことができると示唆された。技術の有用性を説得するためには、まず起業家自身が「自分ごと」として実証し、その効果を熱量を持って伝えることが最強の営業ツールになるとのアドバイスが送られた。

伴走型システムで子どもを争いから守る:株式会社りむすび

株式会社りむすび 代表取締役社長 しばはし 聡子氏 株式会社りむすび 代表取締役社長 しばはし 聡子氏

続いて登壇したのは、離婚後の父母が協力して子育てを行う「共同養育」を支援する、株式会社りむすび 代表取締役社長 しばはし聡子氏である。同社には、事業立ち上げから経営まで幅広い経験を持つキャディが伴走している。

離婚後の「共同養育」を支える豊富な伴走支援の実績

しばはし氏は、親の離婚によって子どもが争いに巻き込まれ、親子関係が断絶してしまう社会課題の解決に向けて、長年にわたり共同養育支援を行ってきた実績を語った。同社はこれまで、子どもの引き渡しや面会交流の付き添い、父母間の連絡の仲介など、1万件以上の家庭に対してきめ細やかな人的サポートを提供してきた。親の感情的な対立を和らげ、離婚しても「二人親」として子どもに関わり続けられる環境を構築するパイオニア的存在として、多方面から高い評価を得ているという

法改正によるニーズの急増と人的リソースの課題

現在、共同親権導入に向けた法改正の動きなどを背景に、同社の親子交流支援へのニーズは全国的に急上昇している。すでに28都道府県にスタッフを配置して対応にあたっているが、支援を求める声はさらに増え続けており、人的リソースのみに頼った現在のサポート体制では限界を迎えつつあるという。今年度中に47都道府県すべてに対応できる体制を構築したいという目標を掲げる一方で、ヒューマンエラーを防ぎ、より多くの家庭に支援を届けるための業務の効率化が急務となっている現状が説明された。

AIを活用した「共同養育管理アプリ」の開発構想

この課題を突破するため、しばはし氏は長年蓄積してきた現場の「修羅場」のノウハウをAI化し、父母間のやり取りをシステム上で見守る「共同養育管理アプリ」の開発構想を発表した。このアプリは、単なるスケジュール調整ツールではなく、感情的な対立を生むような過激なメッセージをAIが検知・介入することで、未然に争いを防ぐ機能を想定している。一般社団法人から株式会社へと組織変更を行い、事業の本格的なスケールを目指す同社から、マーケティング戦略や資金調達、パートナーシップのあり方についての相談が投げかけられた。

有識者とのやり取り:強みの再定義と、シナジーを生むパートナー開拓

垣貫真和氏(左:運営会合)、中川栄治氏(右:選考評価委員) 垣貫真和氏(左:運営会合)、中川栄治氏(右:選考評価委員)

同社の事業に対し、有識者からは、これまでの活動に対する高い評価と、事業をさらに一段階引き上げるための実践的なアドバイスが送られた。

アプリ開発については、単なる連絡ツールとしてではなく、離婚後の新たなパートナーとの関係性構築も含めた、複雑な家族課題に対応できるシステムへの昇華が求められた。また、同社の最大の強みは「システム開発力」ではなく、1万件以上の現場で泥臭く培ってきた「揉め事を解決するノウハウ」であると指摘された。そのため、自前でゼロからシステムを構築するのではなく、すでに多くのユーザーを抱えるプラットフォーマーや通信インフラを持つ企業と協業し、そこに自社のノウハウを実装していく戦略が最も効率的であるとアドバイスされた。

さらに、全国展開に向けた支援人材の確保については、同じく社会的な家族課題に取り組む「子ども食堂」などのネットワークと連携し、互いのリソースを補完し合うアプローチが提案された。また、同社の活動の社会的意義を広く認知させるために、支援現場のリアルなストーリーを漫画やショートドラマなどのコンテンツとして発信し、世論の共感と「推し」を獲得していくマーケティング手法も提示された。

総括:原体験の重要性と相手のニーズに応える提案

福田正氏(左:ICTスタートアップリーグ運営会合長)、野間邦夫氏(右:総務省) 福田正氏(左:ICTスタートアップリーグ運営会合長)、野間邦夫氏(右:総務省)

セッションの最後には、運営会合長 福田氏および総務省からの総括が行われた。

福田氏は、原田氏の講演とバリューアップセッションの議論を振り返り、「自分が心底惚れ込み、自ら実践し、一人称で語れるビジネスこそが、最強の営業力と説得力を持つ」と改めて強調した。技術やプロダクトの機能(What)を売るのではなく、なぜ自分がこれをやるのかという哲学や原体験(Why)を磨き、それを相手の切実なニーズにどう接続するかを考え抜くことの重要性が語られた。

総務省の野間氏からも、「起業家の原体験と、そこから生まれる熱量が事業推進の大きな原動力になる」との感想が述べられた。また、「相手が本当に欲しいものを引き出し、自分のサービスとマッチングさせる」という顧客視点のアプローチが、ビジネスを前進させるために不可欠であると参加者にエールが送られた。

AI時代の新しいインフラ構築に挑む株式会社In-Spectorと、テクノロジーで家族の絆を守る株式会社りむすび。有識者からの実践的なフィードバックを受け、両社が今後どのように事業を洗練させ、成長を遂げていくのか、引き続きその動向を注視していきたい。

■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。

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