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資本政策のリアルから、スポーツAIによる公営競技の高度化、世界展開を目指す盆栽AIまで。2026年度「リーグアカデミー」初開催の模様をレポート ― 2026年度 第1回リーグアカデミーレポート―

資本政策のリアルから、スポーツAIによる公営競技の高度化、世界展開を目指す盆栽AIまで。2026年度「リーグアカデミー」初開催の模様をレポート

2026年8月7日、ICTスタートアップリーグにおいて、採択スタートアップのさらなる事業成長を支援する「リーグアカデミー」が開催された。本プログラムは、スタートアップの経営陣が直面する課題に対し、すぐに実務で使える実践的な学びを提供することを目的としている。2026年度の第1回は「スタートアップにおける資本政策とよくある失敗」をテーマに、有識者らによる「パネルディスカッション」が行われた。

また、パネルディスカッションに続いて実施された「バリューアップセッション」では、マルチモーダルAIを用いた全世界対応の盆栽生育管理システムを展開するJinShariが登壇し、有識者との間で事業モデルの根本を問う活発な議論が交わされた。

本稿では、2026年度初開催となったパネルディスカッションの様子と、熱気を帯びたバリューアップセッションの模様を詳細にレポートする。

第1部:パネルディスカッション「経営に直結する実践知を学ぶ」

伊東心氏(左:ブリッジコンサルティンググループ株式会社)、後藤敏仁氏(中:FiNX株式会社)、菊川淳氏(株式会社 M&A LABORATORIES) 伊東心氏(左:ブリッジコンサルティンググループ株式会社)、後藤敏仁氏(中:FiNX株式会社)、菊川淳氏(株式会社 M&A LABORATORIES)

今年度初回のパネルディスカッションは、テーマは「スタートアップにおける資本政策とよくある失敗」として、ブリッジコンサルティンググループ株式会社の伊東心氏、FiNX株式会社の後藤敏仁氏、そして株式会社 M&A LABORATORIESの菊川淳氏の3名が登壇した。

ファシリテーターを務めた業務実施機関である株式会社みらいワークスの代表取締役社長・岡本祥治氏自身も過去に、共同創業者と議決権を50%ずつに分けて会社を設立してしまい、後に苦労したという「教科書に書いてある絶対にやってはいけない失敗」の経験談を共有し、起業家にとって資本政策の正しい知識がいかに重要であるかが強調された。

CFOに求められる役割と、経営者との関係性

パネルディスカッションでは、まず「CFOに求められること」をテーマに意見が交わされた。監査法人出身の伊東氏は、CFOは会計だけでなく、法務、人事、総務全般、さらには事業をいかに成長させるかという領域まで幅広く求められると指摘した。自身が不得意な領域であっても、外部の専門家や社内メンバーを巻き込みながらチームビルディングを行う能力が不可欠であるという。

後藤氏は、組織運営の観点から「社長を否定しないこと」と「部下を馬鹿にしないこと」の2点が圧倒的に重要であると述べた。社長のビジョンを実現するために資金やガバナンスを考えるのがCFOの役割であり、この信頼関係が崩れると組織は機能しなくなると強調した。

菊川氏もこれに同調し、CFOの役割は創業者社長がやりたいことを実現するための支援を、会計基準や法例に準拠した範囲で、徹底的に行うことであると語った。一見実現不可能な目標であっても、どうやったら実現できるかを考え、社長の意思決定をサポートすることが重要であると説明した。

CFOの採用における見極めと、CEOのファイナンス知識

優秀なCFOの採用については、伊東氏が「一緒にできそうかというフィーリングや相性が最も重要である」と回答した。面接だけで判断するのは難しいため、急いで採用するよりも、まずは業務委託などから始めて相性を見極めるステップを踏むことが推奨された。菊川氏も、ミスマッチのインパクトを減らすために、最初は業務委託として関わり、その後に正社員として登用する手法が有効であると語った。

さらに、後藤氏からは「スタートアップCEOもファイナンスを学ぶべき」というテーマでプレゼンテーションが行われた。海外で先行している多様な資金調達手法を日本に輸入する「タイムマシン経営」の視点が紹介され、CEOは最初からすべての専門知識を持つ必要はないが、外部の専門家からの説明を理解し、最終的に自ら納得して意思決定を行える姿勢を持つことが不可欠であると結論付けられた。

登壇者への質疑応答:事業への関与とM&Aの準備

参加者からの「CFOは事業運営にどこまで関与するべきか」という質問に対して、菊川氏は「事業の解像度を上げないと意思決定ができないため、事業責任者を巻き込んで徹底的に解像度を上げる作業を行うべきだ」と回答した。伊東氏も「企業価値の向上はCFOの役割であるため、ここはやってはいけないという線を引かずに、事業がうまくいくようにしっかりと取り組むべきだ」と語った。

また、「M&Aを想定する場合、どのくらい前から準備すべきか」という問いに対しては、買い手が納得する成長の蓋然性などのエビデンスを構築するために、最低でも半年から1年の準備期間が必要であるとの見解が示された。急にキーパーソンを採用するなど無理な体制構築は買い手に見透かされるため、自然に整備された状態を作ることが重要であるとアドバイスされた。

第1部 パネルディスカッションまとめ

第1部のパネルディスカッションでは、スタートアップの成長を左右する「資本政策」と「CFOの役割」について、実体験に基づいた実践的な知見が共有された。CFOは単なる財務の専門家にとどまらず、CEOのビジョンを深く理解し、事業成長を共に牽引するパートナーとしての役割が求められる。同時に、CEO自身もファイナンスの基礎を学び、外部の専門家の意見を正しく評価して最終的な意思決定を下す姿勢が不可欠であることが示された。

また、CFOの採用においては業務委託期間を設けてミスマッチを防ぐ工夫や、M&Aを見据えた半年から1年単位での計画的な組織づくりなど、明日からすぐに活かせる具体的なアクションが提示された。スタートアップが急成長を遂げるためには、強固な経営体制と資本政策の構築が不可欠であることが改めて確認されたセッションとなった。

第2部:バリューアップセッション

リーグアカデミーの熱気も冷めやらぬまま、第2部としてバリューアップセッションが開催された。今回は、全く異なるアプローチで社会課題の解決と業務効率化に挑む採択者が登壇した。

マルチモーダルAIで日本の伝統文化を守る、全世界対応の盆栽生育管理システム:JinShari

Jinshari 勝村智樹氏 Jinshari 勝村智樹氏

マルチモーダルAIを用いた全世界対応の盆栽生育管理システムを手がけるJinShariの勝村智樹氏が登壇。JinShariにはUI/UXの知見を持ち、中小企業診断士として企業のAI活用を支援してきた専門家がキャディとして伴走している。

海外における盆栽の熱量と、言語化されていないニーズの発見

盆栽は現在、世界中で大きなブームとなっている。これまでドイツ、チェコ、アメリカ、マレーシア、フィリピンなど世界各国に足を運び、現地の盆栽コミュニティを直接取材してきた。直近でも、ICTスタートアップリーグの支援を活用してマレーシアで開催された「JAPAN EXPO」に出展し、現地の愛好家と直接対話を重ねた。

その結果、海外の多くの人々が漫画や映画といった日本のポップカルチャーを通じて盆栽に強い憧れを抱いている一方で、「育て方が全く分からない」という理由で手を出せずにいるという潜在的な巨大ニーズを発見。日本の伝統文化である盆栽の哲学や美意識を正しく伝えつつ、誰もが簡単に盆栽を楽しめる世界を作るため、AIを活用した生育管理サービスの開発に着手している。

気候差を乗り越えるAI技術と、3つのコア機能

JinShariが開発を進めるシステムは、大きく3つの機能で構成されている。

一つ目は、盆栽専門雑誌のデータを学習させたAIチャットボットである。一般的な生成AIでは回答が難しい、盆栽特有の専門的な質問に対して精度の高いアドバイスを提供する。二つ目は、居住地の気候条件に合わせた作業提案機能である。盆栽は、日本とヨーロッパ、東南アジアなど、育てる環境の気候によって水やりや剪定の時期が全く異なる。JinShariのシステムは、ユーザーの居住地を判別し、その環境に最適化された生育スケジュールを自動で提案する。 三つ目は、病害虫の画像診断機能である。スマートフォンで盆栽の写真を撮影するだけで、AIが病気や害虫の種類を特定し、適切な処置方法を案内する。

現在、これらのコア機能の開発を進めつつ、2026年8月末にマレーシアで開催された「世界盆栽大会」(4年ごとに開催される盆栽の世界大会)ではJinShariの取り組みに関するセミナーを開催するなど、世界規模のプロモーションを平行して行っている。

ビジネスモデルの構築と、マーケティングの壁

今後の事業展開において、3つの相談事項が提示された。

1点目はビジネスモデルである。世界中に散らばる個人の愛好家から直接サービス料を徴収するモデルを基本とするものの、広告チャネルとしては個人を対象とするB2Cモデルでは広告費が高騰するため、現地の盆栽販売業者を巻き込んだB2B2Cモデルが有効ではないかと考えているという。

2点目は、事業領域の拡張である。現在は「生育サポート」というサービス領域に特化しているが、将来的には盆栽自体の「販売・流通」にまで手を広げるべきか悩んでいると語られた。

3点目はマーケティング戦略である。盆栽の裾野を広げるためには、コアな愛好家だけでなく、ポップカルチャーに関心があるカジュアルな層をどう取り込んでいくかが課題となっている。

有識者からのフィードバック:世界プラットフォームの構築と「道」の定義

舘林俊平氏(左:選考評価委員)、小林寛幸氏(右:選考評価委員)、平英晴氏(右:選考評価委員) 舘林俊平氏(左:選考評価委員)、小林寛幸氏(右:選考評価委員)、平英晴氏(右:選考評価委員)

有識者からは、同社の取り組みに対して非常に高く、かつスケールの大きな期待が寄せられた。

ある有識者は、盆栽の価値が時間の経過とともに大きく変動する点に着目し、1万円で買った盆栽が、AIの適切な管理のもとで美しい形に育つことで10万円の価値を持つようになるという「育成のプロセスそのもの」が、一種の投資やエンターテインメントになり得ると指摘した。日々のわずかな変化をAIとカメラで記録し、それを世界中のユーザーと共有するような、巨大な「ワールド盆栽プラットフォーム」を構築すべきだと提案された。さらに、国や有名雑誌の監修という権威付けを行い、世界の盆栽コミュニティを一気に取り込むようなダイナミックな事業展開が推奨された。

別の有識者からは、日本の伝統文化を世界に展開する際の重要な視点として、「柔道」と「海外のJUDO」の比較が語られた。海外で盆栽が普及するにあたり、現地の文化や価値観と融合していくことは避けられないが、ただ相手に迎合するのではなく、世界共通の根本的なルールや哲学としての「盆栽道」をまず明確に定義することが不可欠であると指摘された。その共通の土台(フレームワーク)を作った上で、国ごとの気候や美意識といった個別の要素をAIでローカライズしていくという、2層構造の設計が求められた。

さらに、盆栽の多くが種からではなく「挿し木」などの増殖技術で増やされるという業界の特性も議論された。遺伝子が同じクローンであるからこそ、その後の「いかに育てるか(育成管理)」というプロセスが盆栽の主な価値を決めることになり、AIによる生育管理サポートの重要性がより一層高まるという事業の強みが再確認された。

これらを受け、ビジネスとしてスケールさせる仕組みを模索しつつも、自身の根底にある「日本文化を守り、つなげていく」という強い想いと哲学は決してブレさせずに事業を推進していくという力強い決意が語られた。

総括:テクノロジーの追求とビジネス成長の両立へ

福田正氏(左:ICTスタートアップリーグ運営会合長)、佐藤司氏(右:総務省) 福田正氏(左:ICTスタートアップリーグ運営会合長)、佐藤司氏(右:総務省)

セッションの締めくくりとして、総括が行われた。運営会合長の福田氏からは、ICTスタートアップリーグの補助金が、単なるマーケティング費用ではなく、革新的なICT技術開発のための資金であることが改めて参加者に説明された。スタートアップが公益性だけを大義名分にするのではなく、誰もやっていない技術で世界を変え、しっかりと利益を生み出して経済発展に寄与するビジネスモデルを構築することの重要性が力説された。

また、総務省の佐藤氏からは本プログラムが他の省庁からも注目を集める先行モデルとなっていることが明かされ、事業において「誰がお金を出すのか」「どう儲かるのか」を明確にし、ビジネスの成長を強く意識することへの期待が語られた。

AIの力で盆栽文化の世界展開を目指すJinShari。実践的なフィードバックと専任キャディの伴走支援を受け、今後どのように事業の解像度を上げ、スケールさせていくのか、引き続きその動向を注視していきたい。

■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。

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