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水力発電を活用した通信インフラと、クマ出没情報の可視化。次なる事業成長を探る「バリューアップセッション」のリアル ― 2026年度 第3回プレミアムバリューアップセッションレポート―

水力発電を活用した通信インフラと、クマ出没情報の可視化。次なる事業成長を探る「バリューアップセッション」のリアル

川や海で稼働する水力発電装置をネットワークのハブとする株式会社ハイドロヴィーナス。そしてもう一社、野生動物の出没情報を一元化し、情報の共有にかかる時間を3日から5秒へと大幅に短縮するプラットフォームを開発する株式会社BearBellである。

有識者とICTスタートアップリーグの採択者が直接議論を交わし、事業をブラッシュアップする実践的な育成の場「バリューアップセッション」。2026年度第3回目の開催となる今回も、独自の解決策を持つ2社が登壇した。本リーグでは、単なるアドバイザーにとどまらず、経営者とともに悩み事業成長を実行支援する専任の伴走者「キャディ」が配置される体制が敷かれている。

本稿では、採択者と有識者との間で事業モデルの根本を問う議論が交わされたセッションの様子と、採択者が次の一手を見出す軌跡をレポートする。

水力発電をプラットフォーム化し、通信インフラを構築する:株式会社ハイドロヴィーナス

株式会社ハイドロヴィーナス代表取締役 上田剛慈氏 株式会社ハイドロヴィーナス代表取締役 上田剛慈氏

最初に登壇したのは、株式会社ハイドロヴィーナス代表の上田氏だ。同社は、川や海に投入する水力発電装置をプラットフォームとし、無線通信やデータ収集の基盤構築を目指している。

水力発電装置を通信ネットワークのハブへ

川や海に投げ入れるだけで稼働し、ゴミが絡まりにくい水力発電装置を開発している。これを単なる電源としてだけでなく、無線通信やAIを組み合わせたデータ収集のプラットフォーム(ネットワークのハブ)にすることが目標であると語られた。

現在、農業、防災、僻地通信、海洋などの分野で需要を見込み、実証実験を行っている。将来的には、海中の海洋ドローンなど、防衛関係における電源としての活用も期待されているという。

官民連携の壁とアプローチの難しさ

事業化に向けては、大手通信会社へのアプローチの難しさや、省庁ごとに異なる予算・管轄の違いによる調整の壁が課題となっている。水管理と防災では管轄が異なり、複数の分野にまたがるため適切な窓口へのアプローチが難しい現状がある。

また、防災分野では公的なお墨付きが求められ、導入のハードルが高いという。そのため、より普段使いされやすい用途での導入も模索している。

組織を牽引する人材の不足

事業を推進するうえで、経営者と並走できる右腕となる人材の確保も急務となっている。現在、上田氏自身が開発業務に注力しているため、他の業務を補完する人材が求められている。

この課題に対し、今回は元機械系研究者で事業開発の経験を持つ専門家がキャディとして伴走している。今後は市場の優先度を設定し、販売計画の論理を構築していく方針が示された。

有識者からのフィードバック:事業の収益性と海外展開の視点

岡本祥治氏(左:運営会合)、名倉勝氏(右:運営会合) 岡本祥治氏(左:運営会合)、名倉勝氏(右:運営会合)

有識者からは、企業や行政へ紹介を依頼する前提として、「パートナー企業がどれだけ利益を得られるか」というビジネスプランの明確化が必要であると指摘された。自分たちだけでなく相手の利益も提示しなければ紹介が難しいため、収益化の道筋を示すことが求められた。また、資金調達に向けても、国のプロジェクト採択や大手との契約といった事業の蓋然性を示すドキュメントが不可欠である現状が共有された。さらに、プログラムの中間審査に向けて、着実に研究開発が進んでいるエビデンスを定期的に報告することの重要性も語られた。

新たな市場開拓の視点として、海洋ドローンの電源用途として防衛関係の担当窓口を紹介できる旨の提案があった。具体的なメリットを提示することで紹介が可能になると述べられた。さらに、規制が少なくマイクロ水力発電の需要が大きいアジア諸国(ネパールなど)の市場を挙げ、海外展開を初期段階から視野に入れるべきだとの助言もあった。また、人材確保の課題に対しては、経営者自らがビジネスSNS等を活用し、優秀な人材のつながりを活かして直接アプローチする手法が提案された。

クマ出没情報を「3日から5秒」へ短縮し、リスクを可視化するプラットフォーム:株式会社BearBell

株式会社BearBell 代表取締役/共同設立者 服部悠大氏 株式会社BearBell 代表取締役/共同設立者 服部悠大氏

続いて、野生動物の出没情報を地図上で共有するサービスを展開する株式会社BearBellの服部氏が登壇した。同社には、財務やスタートアップ支援の経験を持つ専門家がキャディとして伴走している。

散在する情報を統合し、出没情報を迅速に共有

秋田県を中心にクマの被害が発生している現状に対し、同社は行政や個人の散在する情報を一元化するシステムを開発している。AIによる情報の信頼度スコアリングや、既存の防犯カメラ等との連携を行う。

これにより、情報の検証を自動化し、出没情報の共有にかかる時間を従来の「3日」から「5秒」へと短縮する仕組みである。一次被害や二次被害を効率的に防止することを目指している。

住民向けアプリの反響と多様なターゲットへの展開

同システムのアウトプット先は、住民向け、企業向け、行政向けの3つを想定している。7月13日にリリースした住民向けのアプリケーションはメディアの報道もあり、リリースから10日間で1万ダウンロードを記録したという。

企業向けでは、インフラ企業などを対象にリスクの可視化やオペレーションの最適化を提案している。行政向けには、情報収集や検証にかかる窓口の負担を軽減するシステムを提供している。

リソースの配分と連携に向けた課題

今後の課題として、他地域の行政(東京都や富山県など)との連携や、国交省等の定点カメラとの連携が挙げられた。また、通信社のアラートシステムへの接続や、秋田県内での専門人材の確保も急務となっている。

さらに、住民・企業・行政向けという3つのサービスが相互に影響し合うなかで、同時進行することが厳しいため、現状の体制でどの領域にリソースを集中させるべきかという方針の決定も課題として提示された。

有識者からのフィードバック:具体的なビジネスケースの提示

小林寛幸氏(左:選考評価委員)、三浦千瑛氏(右:支援機関 株式会社秋田銀行) 小林寛幸氏(左:選考評価委員)、三浦千瑛氏(右:支援機関 株式会社秋田銀行)

有識者からは、対象となる企業に対し、クマの出没による逸失利益を同社のサービスでどれだけ削減できるかを示す、具体的なビジネスケースとシミュレーションの作成が求められた。情報を検知・分析するだけでは価値がつきづらく、配送ルート変更などの具体的なソリューションとセットで提案して初めてビジネスになると指摘された。他のソリューションと比較しても優位性があることを図示し、誰がお金を払うのかという事業の解像度を高めた説明を行うべきだと助言された。

また、事業を展開する上で、現状で最も反応が良い「住民(民間)」向けサービスにビジネスの種があるのではないかという視点が提案された。他機関への紹介を依頼する前に、自社でどのようなアプローチを行い、どのような理由で断られたのかというプロセスを提示する必要性も指摘され、まずは自ら行動し、その結果をもとに相談するようアドバイスが送られた。運送業者だけでなく困っている人たちを多く見つけてポートフォリオを作り、スピード感を持って事業を推進することが重要であると語られた。

総括:テクノロジーの追求とビジネス成長の両立へ

福田正氏(左:ICTスタートアップリーグ運営会合長)、野間邦夫氏(右:総務省)(右:総務省) 福田正氏(左:ICTスタートアップリーグ運営会合長)、野間邦夫氏(右:総務省)

セッションの最後には、運営会合の総括が行われた。本プログラムの補助金がマーケティング費ではなく、ICT技術開発のための資金であることが説明された。公益性だけを理由にするのではなく、スタートアップとして利益を生み出し、経済発展に貢献するための技術開発に資金を投じるべきだとの方針が示された。また、総務省の野間氏からは、事業において「誰がお金を出すのか」を明確にすることの重要性と、参加者同士のつながりの価値が語られた。

水力発電を活用して川や海の通信インフラ構築を目指す株式会社ハイドロヴィーナスと、クマの出没情報を迅速に可視化しリスクを防ぐプラットフォームを構築する株式会社BearBell。有識者からの実践的なフィードバックとキャディの伴走支援を受け、両社が今後どのように事業を成長させていくのか、引き続きその動向を注視していきたい。

■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。

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