次世代を担う子どもたちの成長環境の課題は、現代社会の大きなテーマだ。特に近年は、SNSが議論の対象となっている。スマートフォンやタブレットの普及とともに、子どもの性犯罪被害やSNSいじめといったリスクは世界的に深刻化し、オーストラリアでは国家として初めて16歳未満のSNS利用を禁止する法律が成立。米国でも少なくとも16州で関連法が可決されるなど、「子どもとSNS」のあり方が喫緊の課題として問われている。
子どもの安全を第一に考えるニーズと、子どもがSNSを活用することで能力や創造性を伸ばしてほしいというニーズがせめぎ合うジレンマを、テクノロジーの力で根本から解決しようと挑むスタートアップがある。それが、株式会社4kiz(フォーキッズ)だ。同社は、子どもが安心安全に利用できるSNSプラットフォームを開発。さらに、従来のネガティブな情報が広がりやすいSNSの文化を根本から変えるべく、「AI感情分析」を導入し、ポジティブな内容であるほどバズりやすいプラットフォームを提供している。
「極貧」と自ら形容する環境から独学で東京大学・ハーバード大学院を修了し、アジア最大級の国際NGOである日本財団で数々の新規事業を立ち上げてきた、異色の経歴を持つ代表取締役CEOの本山勝寛氏に、いかにして子どもたちの創造性と安全性を両立させるのか、そのビジョンを語ってもらった。
4kiz代表本山勝寛氏まずは本山さんのプロフィールと、創業までの経緯をお聞かせください。
本山:幼い頃は大分県の貧しい家庭で育ち、高校からアルバイトで家計を支えながら独学で東京大学理科一類へ進学しました。その後、ハーバード大学教育大学院に単身留学。卒業後は2007年に公益財団法人日本財団に入社し、2021年に株式会社4kizを設立しました。
アルバイトをしながら、独学で受験というのはかなりの苦労だと思いますが、振り返ってみてどういった点が、今に活かされていると思いますか?
本山:東大を目指したきっかけは、大分県の田舎で育った幼少期に漫画『お~い!竜馬』(原作・武田鉄矢)や司馬遼太郎の『竜馬がゆく』に触れ、坂本龍馬をはじめとする幕末の志士に感銘を受けたことです。「日本を今一度洗濯いたし申候」という言葉に刺激を受け、とにかく日本を良い方向に導いていくリーダーになりたいと思い、多くのリーダーを輩出している東大を選びました。
東大受験は、お金の苦労や親の不在といった厳しい環境からでも必死に努力すれば自らの力で状況を変えることができるという確信を抱かせてくれ、「学びは、夢を叶える可能性や、人生を切り開く力を持っている」という原体験になりました。この経験から、次世代の子どもたちにも夢や目標にチャレンジできる機会を提供したいという思いが、少なからず現在の起業にもつながっていると思います。
大学に進学してからの経歴も個性的ですが。
本山:東大では、その年に新設された「工学部システム創成学科」を選択。文・理の学問的枠組みを超えて「テクノロジーを活用して社会変革を起こす」というコンセプトに惹かれました。
同級生の多くは官僚になったり大企業に就職したり、東大の大学院に進んだりしましたが、私は既存のシステムに属することにどこか違和感を覚えていました。自分が本当にやりたいのは社会を変えることだったはずだと原点を見つめ直し、教育を通して若者の「学び」を支援するという目標を定めました。より広い視点を得るために、英語が苦手ながらもハーバード大学教育大学院への留学を決断し、国際教育政策修士課程を修了しました。
教育学を学んで帰国した後は、アジア最大級の国際NGOである日本財団で、パラリンピックサポートセンターの設立など30以上の新規事業を立ち上げてきたそうですが、特に印象的だったお仕事はありますか?
本山:子どもの支援事業で「子ども第三の居場所」事業の責任者を務めた時のことは思い出深いです。全国100拠点を目標に、“家庭や学校とは異なる、安心して過ごせる「もう一つの家」として、食事や学習支援、生活習慣の定着、体験の機会を提供する施設”を設置するプロジェクトを推進しました。
しかし、その後コロナ禍に見舞われました。もともとリアルな居場所の大切さを実感していましたが、オンラインの可能性や課題についても気付かされました。その時に改めて、大人の立ち会いのもと既存のオンライン会議アプリを使うことを強いられる状況に、「子どもが安全に直接つながれるプラットフォームの不在」を大きな課題として意識しました。ここで感じたもやもやが、起業のきっかけの一つとなりました。
そういった中で、最終的に「4kiz」を起業する決定打となった、6児の父としてのエピソードを詳しくお聞かせください。
本山:当時11歳の長女が描いたデジタルアートをSNSに投稿しようとした際、大手SNSが全て「13歳以上」という利用制限があることを知り、「子どもたちが当たり前にインターネットを使う時代に、安全ではないから使えないという社会の矛盾」を痛感しました。今までのもやもやもあり、「他の企業がやらないなら自分がやるしかない」と考え、起業を決意しました。
フォーキッズアプリ初期画面現在4kizが提供するサービスについて教えてください。
本山:現在、大手のSNSが利用規約上、13歳以上が対象となっている中、4kizは15歳以下の子どものための安心安全なSNSサービス「フォーキッズ」を開発・提供しています。このSNSでは、動画や画像の投稿機能とグループチャットが行えるコミュニティ機能が楽しめます。
まずは、本山さんが思う、SNSのメリットについて教えてください。
本山:SNSは「個をエンパワーすること」と「人と人とを出会わせること」が最大のメリットです。ハーバードへの留学の際、受験記などの発信を通じて多くの方々からの応援を得て目標達成できた自分自身の経験から、子どもたちが自分のチャレンジや体験を発信することで、同じようにチャレンジする人々に勇気を与え、相互にエンパワーし合える場を提供したいと考えています。
いっぽう、現在問題になっている子どものSNS利用の危険性については、具体的にはどんな問題が挙げられますか?
本山:そもそも、SNSの運営側の各社は13歳以下のSNSの利用を制限しているとうたいながら、実態としては多くの子どもが年齢をいつわることでサービスを利用している現状があります。その中で深刻化している問題は大きく2つあります。
1つは、性犯罪。悪意のある大人ユーザーよる「性的グルーミング」や「児童買春」といった被害が問題となっています。そして、もう1つは、SNSいじめの増加です。学校が把握している分だけでも国内で年間2万件以上発生しており、特に小学生では急増。中学生でも高止まりしています。「死ね」「消えろ」などといった非常にきつい言葉が日常的に飛び交い、深刻化すれば自殺に至るケースもあります。
10年ほど前までは「SNSは子どもにはリスクが高いから使わせない」という考え方が主流でしたが、今は文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」や、コロナ禍によってオンライン端末が急速に普及したことで、子どもがスマホやタブレット、インターネットを使うのが当たり前の時代になっています。時代を逆戻りできない以上、リスクを極力減らした上で、「安心安全な環境で子どもたちにSNSのポジティブな側面、メリットを提供すること」が必要であると考えています。
そういったリスクから子どもたちを守るために、「フォーキッズ」はどのような技術と設計が用意されているのでしょうか。
本山:「フォーキッズ」では複数の防御壁を築いています。
1つ目が「設計上の制限」です。トラブルや犯罪の温床となる1対1のダイレクトメッセージ(DM)機能は、あえて搭載していません。交流は常に公開されたコミュニティやコメント欄に限定されます。
2つ目は、独自の「親子認証システム」です。悪意のある大人が子どもになりすまして侵入することを防ぐため、親子(保護者)が共同で動画を撮影・提出する認証システムを導入し、サービス全体のクリーンさを担保しています。
そして3つ目が、「投稿前のNGワード検知とAIによる不適切内容の審査」と、今回ICTスタートアップリーグにも採択いただいた「AI感情分析」の導入です。誹謗中傷や暴力的な表現は投稿前に自動でブロックされ、さらに一部の投稿を専任のスタッフが人の目で審査しています。これに加えて、感情分析も導入することで、NGワードではすり抜けてしまうものの強いネガティブな言葉ややり取りも検知できるようになり、二重、三重のチェック体制を敷いています。
この「AI感情分析」によって「世界一ポジティブなSNS」の構築を目指すとのことですが、具体的に教えていただけますか?
本山:「AI感情分析」は、私たちの事業が目指すものを後押しする技術です。SNSいじめでは、直接的な暴言を使わず、相手を傷つけてしまうこともあります。「〇〇くんって、自分のこと天才だと思ってそう。友達にしたくない。」「また〇〇さんの絵だ。飽きたんだけど。やめてほしい。」といった、ネガティブな感情を誘発するもののNGワードには引っかからない表現もAIが分析します。
この分析結果を、単なる“制限”だけに活かすのではなく、アルゴリズムに反映させるのが「フォーキッズ」です。具体的には、ネガティブなやり取りは拡散されにくいよう、表示順序や露出を調整し、逆に「すごいね」「頑張ろう」「共感する」といったポジティブな投稿や、建設的なフィードバックを優先して表示・拡散する仕組みを構築しています。
4kizが目指すのは、「ネガティブなことをするよりも、ポジティブなことをした方がアルゴリズムによってバズって広がる」という世界観です。現今のSNSの炎上と一線を画する「褒めあう」文化により、子どもたちは自然と他者を尊重し、建設的な交流を学んでいくのではないかと考えています。
すこし意地の悪い質問ですが、過度な規制は子どもの自由な表現を奪うという懸念もありますが、このバランスをどう取っていますか。
本山:難しい問題ですが、まず「フォーキッズ」では、ネガティブな表現すべてを禁止しているわけではありません。「宿題面倒くさい~なくなってほしい」などのネガティブだけど素直な気持ちの表現も行うことができます。一方で、このSNSで最も大切にしているのが「安全性」であることも確かです。表現することの自由を担保しつつ、ネガティブな言葉は拡散されにくいアルゴリズムによって、子どもたちが安心してコメントや投稿ができる環境をバランスよく設計していくことに配慮しています。
その他、フォーキッズのアピールポイントはありますか?
本山:ユーザー同士のコラボレーションにも、楽しみな可能性があると思います。共通の趣味を持つ人たちが集まれるコミュニティでは、「このキャラクターをテーマに物語を作りたいから、誰か絵を描いてくれませんか?」といったリクエストのやり取りを通じて、新しい作品が次々に生まれています。
自由研究の投稿今後の成長戦略と、収益の柱について教えてください。
本山:収益モデルの柱は「サブスクリプション」「広告」「企業タイアップ」の3本です。4kizは現在、四半期ごとに約2倍のペースで成長しており、コメント数は月間15万件と急増しています。現時点でのメインは、企業と共同で子ども向けコンテストなどを実施する企業タイアップです。これは、教育や創造性に関わる企画を安全に実施できるという企業側のニーズに合致しており、最も注力しています。
中長期的には、2025年10月時点で約7万人いるユーザーの規模拡大に合わせて、子どもや保護者にセグメントされた広告事業や、コミュニケーションを活性化させるスタンプやアバターなどのサブスクリプション事業を本格化させて収益のメインに成長させるよう、戦略を立てています。
ICTスタートアップリーグに参加されたことで、どのような成果やネットワークを得られたかお聞かせください。
本山:採択されて事務的に終わりということではなく、補助金事業に加えて、いろいろな取り組みを通して後押ししていただけて素晴らしいなと感謝しています。このインタビューもそうですし、さまざまな形でスタートアップを盛り上げるサポートをいただき、また、アカデミーなどを通して多くの関係者の方のお話を聞かせていただく機会にも恵まれ、非常に刺激を受けました。
褒め言葉が多いコメント欄とスタンプ世界的に子ども向けSNSの規制が強化される中で、今後の市場動向についてどのようにお考えですか。競合となる海外サービスとの優位性についても教えてください。
本山:オーストラリアや米国で規制が強化されている流れは、今後世界中に波及するでしょう。そしてこの動きはむしろ、安全性を最優先する私たちのプラットフォームの社会的意義を、さらに高めることになると思います。
海外には、動画投稿に特化した「Zigazoo(ジガズー)」など類似サービスがありますが、彼らはコミュニティやコメントといった交流機能を持っていません。これは、安全性を担保しつつ、子どもたちのコミュニケーションニーズに応えることに技術的にも運営体制にも壁があるためです。
一方、「フォーキッズ」は、AIや感情分析によって安全性と交流機能を両立させた世界でもユニークなポジションを確立しています。これが、単なるコンテンツ消費の場ではなく、「褒め合い、挑戦を応援し合うコミュニティ」を提供するという、決定的な優位性となっています。私たちは既に6言語でのグローバル版をリリースしており、国内での成長を優先しつつも、並行して海外展開を目指しています。
最後に、「フォーキッズ」を通じて、社会にどのような未来を築きたいでしょうか。
本山:私たちのミッションは「子どもたちの可能性を無限に引き出す世界中のつながりをつくる」ことです。
極貧から独学で東大・ハーバードへ辿り着いた私自身の経験から、「学びを通して自分を成長させる機会は、全ての子どもに平等にあるべき」と強く信じています。私たちは、AIとテクノロジーを駆使して、子どもが自分らしく、安全な環境でつながり、エンパワーし合うことで、個々の才能を伸ばすためのオンライン上の居場所を提供します。世界中の子どもたちが、国境や境遇、才能の有無を超えて互いに応援し合える。そんな未来を築くことが、私たちの目標です。
第10回日本アントレプレナー大賞部門賞を受賞編集後記
本山氏のキャリアの歩みは、困難な環境から独学で道を切り開き、日本財団で培った事業構築の経験を、6児の父として直面した社会的な問題意識に結びつけ、日本の将来を担う子どもたちの社会の礎を築こうとする「社会変革のリーダー」そのものだ。
従来のSNSが抱えるネガティブな課題を、AI感情分析の力で克服し、「世界一ポジティブ」なSNSを創り出そうというビジョンは、単なるビジネスではなく、次世代の教育環境における令和の維新である。規制強化が進む世界で、「フォーキッズ」を利用した子どもたちが、どういった成長を見せるのか楽しみだ。
■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。
■関連するWEBサイト
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