コラム
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薬局に行かず、LINEで薬が届く時代に ―Amazon流ロジスティクスが医療を変える!―【2025年度ICTスタートアップリーグメンバーインタビュー:株式会社Kiviaq】

病院で体調が優れない中、長時間待たされ、さらに薬局でも待たされる……。これは、日本で医療を受ける上で誰もが「仕方のないこと」と諦めてきた光景である。その「当たり前」を根底から覆す、革新的な次世代薬局サービスが、2025年11月17日にスタートを切った。

サービスの最大の特徴は、「薬局に行かずに処方薬が手元に届く」という画期的な仕組みにある。患者は診察後にLINE上で必要な操作を行うだけ。移動や待ち時間、二次感染リスクといった負担をなくし、調剤後最短30分というスピードで、薬を無料配送してもらえるのだ。

この“薬局革命”に挑むのは、「すべての医療体験を圧倒的に」をビジョンに掲げる株式会社Kiviaq(キビヤック)。テクノロジーとSCM(サプライチェーンマネジメント)を融合し、全く新しい医薬品流通と薬局体験を生み出すことで、非効率が長年放置されてきた日本の医療・薬局業界に大きな一石を投じようとしている。

代表取締役社長・岡田俊氏に、創業の経緯、次世代薬局サービスの具体的な内容と今後の展開、そして描いている未来のビジョンについて聞いた。

株式会社Kiviaq代表取締役社長 岡田俊氏株式会社Kiviaq代表取締役社長 岡田俊氏

異色のキャリアパスが導いた医療DXへの挑戦

まず、Kiviaqを創業するまでの岡田さんのキャリアについておうかがいします。

岡田:高校卒業後に渡米し、サウスアラバマ大学で学士号を取得。公認会計士としてKPMGロサンゼルス事務所で働き始めたのですが、直後にリーマンショックが起きまして……。リストラの嵐で入社早々人手が足りない状況の中、会計士が本来やる監査業務よりも、プロジェクトを回す経営的な仕事に入社後早い段階で関わることになりました。

一般的な会計士のキャリアとはちょっと違う方向に走りだした、と。

岡田:次第に、会計士の立ち位置ではなく、トップライン(売上)を自ら作り出し、利益を最大化していくことを世界のビジネスの最前線でやってみたいという思いが強くなり、当時まだGAFAとも言われていなかった時代に、日米のApple、Amazon、Google各社に直接求職のメールを送りました。その中で、日本のAmazonから「国内最大の倉庫を作るプロジェクトで、戦略立案から立ち上げ、経営の安定化までリードしてほしい」というオファーをいただき、日本への帰国を決意しました。

帰国してAmazonに入社し、プロジェクトを任されたんですね。

岡田:人生の転機でしたね。Amazonではお客様にどれだけ早く手軽に、コストを抑えながら物を届けるかという、物流・サプライチェーン事業における戦略をずっと練っていました。独自の配送網を構築し、大手運送会社以外の配送員が荷物を運ぶ仕組みや、日本初の「置き配」サービスの実装にも関わりました。
その後は自分で起業したいという思いもあってAmazonを退職し、起業活動を行っていましたが、縁あってヘルスケア業界の株式会社ミナカラに入社。CFO(最高財務責任者)を経て代表取締役社長に就任、企業再生と今後10年間の新規ビジネス創出が私のミッションでした。医薬品EC事業の黒字化をはじめ、オンライン診療・薬局事業を新たに推進する中で、課題が浮き彫りになってきました。

どのような課題があったのでしょうか?

岡田:ミナカラの経営を通して痛感したのは、物流業界では当たり前の、原材料の調達から製造、在庫管理、配送、販売といった一連の工程をスムーズに動かすためのSCMが、医療・薬局業界では大きな課題になっているということです。その結果、患者さんへ供給する薬の不足や、医療アクセスが不便になっている現状が見えてきました。
そこで、これまで自分が培ってきたサプライチェーンや物流などの知識・経験を、薬局や医療業界に適用すればより良い世の中が作れるのではないかと思い、Kiviaqを創業するに至りました。

ピッチを行う岡田氏ピッチを行う岡田氏

LINEで完結、調剤後最短30分配送! 薬局の新しい「当たり前」をつくる

医療機関や薬局を利用する患者側の目線での、医療アクセスにおける課題を教えてください。

岡田:私自身、高齢の母の付き添いで病院に行くことが多いのですが、シンプルに一番の課題は「圧倒的な待ち時間」です。病院で長く待った後、薬局でもまた待たされるのは本当に非効率です。また、薬局に行ったのに「在庫がないから別の薬局に行ってくれ」と言われることが意外と多い。結局、何軒か回ってやっと見つかるという「薬の偏在」も大きな課題です。
あともう一つ課題に感じているのは、薬局の付加価値の低さです。薬剤師が行う服薬指導は法的義務ですが、患者さんの多くは「薬さえ手に入ればどこでもいい」と必要性をあまり感じておらず、薬局のブランディングや専門性が発揮できていません。かかりつけ薬局の制度がなかなか進まないのも、こうした課題の裏返しだと思っています。

これらの課題を解決する第一歩が、今回スタートした薬局なのですね。具体的にはどのようなサービスを行っているのでしょうか?

岡田:Kiviaqが提供する薬局サービスは、処方箋の受け取りから調剤、そして配送までをLINEベースで完結させるというものです。患者さんはKiviaqの公式LINEアカウントを登録後、届いた通知に従い必要な情報を入力し、オンラインのビデオ通話で希望する時間に服薬指導を受けます。そして、薬の配送を希望する時間枠(最短は調剤後30分)を選べば、ご自宅や職場、将来的には配送ロッカーなど、指定する場所へ薬をお届けします。
対応医療機関を受診する場合は、医療機関からKiviaqの薬局へ患者さんの処方箋を連携してくれるので、患者さん自身での処方箋をやり取りは不要です。もちろん対応医療機関以外でもサービスをお使いいただけます。

処方箋のやり取りがなく、服薬指導もオンラインで好きな時間を選べるのは画期的です。調剤はどこで行っているのですか?

岡田:Kiviaqが運営する調剤薬局、現在は芝大門にある1店舗で一括して行っています。私たちが「プラットフォーマー」ではなく、自ら調剤薬局を構え、配送部門も持つ「プレイヤー」であることは大きな強みです。薬局と物流部門を垂直統合させているため、サービスの質をコントロールでき、コストも自社の努力で下げられます。サービス利用料・配送料は無料を実現しています。

サービスの認知、広がりという面では対応医療機関への営業が鍵になりそうですが、医療機関の反響はいかがですか?

岡田:ありがたいことに大変よくて、ポジティブなサプライズとして受け止めています。通常の医療機器の営業などでは成約率は1%にも満たないものなのですが、このビジネスモデルに対しては、医師の先生方からも「なんで今までこうしたサービスがなかったんだ」という声をいただき、対応に賛同していただける確率は3割弱に上っています。

Kiviaqの薬局を利用している患者さんは、どのような方が多いのでしょうか?

岡田:大きく分けて三つの利用動機があると思っています。一つ目は、足の骨折や痛風で歩くのがつらい、病院受診後に子どもがぐずってしまった、二次感染を避けたいなど、「物理的に薬局に行きづらい」層です。二つ目は、精神疾患などで外出自体が難しい、公共の場で薬の説明を受けたくないなど、「精神的な配慮やプライバシーの観点で薬局に行きづらい」層です。三つ目は、「タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する」層です。忙しいビジネスマンもそうですが、薬局特有のニーズとして気付かされたのは、終末期で死期が迫っている患者さんです。病院での診察は避けられなくても、その後の薬局での待ち時間は「人生の無駄」だと捉え、一刻も早く自宅で自分の好きなことをしたいという声を聞きました。

終末期の患者さんのニーズというのは、なかなか気付けない視点ですね。

岡田:これまで皆さんが「不便なのは当たり前、仕方ない」と我慢してきたことの中に、実は深く多様なニーズが隠れていたのだと痛感しています。「夜間にも薬がもらえてありがたい」「30分で届けてくれて助かった」といった利用者からの声も届き始めており、手応えを感じています。

Kiviaqサービスイメージ図Kiviaqサービスイメージ図

地方の医療アクセス改善へ。全国60店舗展開と物流倉庫型薬局の未来図

今後の事業拡大についてお伺いします。中長期的なビジョンとして、どのようなサービス展開を考えていますか?

岡田:今後4〜5年くらいで、まずは東名阪などの都心部を中心に60店舗の薬局を開設したいと考えています。これにより、そのエリアに住む方々には最短30分の配送サービスを提供できるようになります。
同時並行で進めたいのは、「物流倉庫型薬局(ハブ薬局)」の実現です。これは、複数の店舗型薬局(スポーク)を束ねるハブの機能を持つ、完全に倉庫型の薬局です。ここでは薬のピッキングや梱包などの対物業務を完全に機械化・自動化し、最小限の人数の薬剤師が幅広い種類の薬の在庫を管理します。このハブとスポークをトラック輸送のネットワークでつなぎ、リアルタイムで在庫をやり取りするモデルを検証していきます。

まさにAmazonのロジスティクス戦略を薬局業界に持ち込むイメージですね。

岡田:そうですね。この物流倉庫型薬局のコンセプトは、地方の医療アクセス改善につながると考えています。2025年5月の改正薬機法の成立により、調剤業務の一部を外部委託することが可能になりました。現時点では、検討段階の多い地方自治体が多いですが、地元の医療機関・調剤薬局をサポートすることで、地方の調剤に関する対物業務を、Kiviaqの工場化された物流倉庫型薬局が請け負うという新しい地方医療体制の一部を作ります。

地方の薬局にとって、どのようなメリットがあるのでしょうか?

岡田:地方の薬局は患者数の減少などで経営が厳しくなってきています。Kiviaqが調剤業務を請け負うことで、その分の薬剤師さんのリソースが浮きます。その浮いたリソースを、在宅医療への参画など、対人業務によりアクティブに投入していただく。つまり、薬剤師の専門知識が真に生きる、付加価値の高い業務に集中できる環境を整えたいのです。物流倉庫型薬局と配送ネットワークを組み合わせることで、過疎地域など、医療アクセスが困難な患者さんにも薬を確実に届けられるようになります。

Kiviaq Pharmacy 001@港区Kiviaq Pharmacy 001@港区

すべては患者の利便性向上のために:薬局の役割から再設計

事業拡大の上で、クリアすべき課題はありますか?

岡田:日本の医療業界全体のDXの遅れです。特に電子処方箋は、現在ほとんど普及していません。これが広がらないと、患者さんの既往歴や現在服用中の薬といった情報が医師や薬剤師の間でスムーズに共有されず、アフターケアや問診の質の向上につながりにくいのです。

いまだに紙の処方箋が主流であることも、非効率ですよね。

岡田:電子処方箋の導入率は現時点で医療機関では2割ほどの状況ですからね。結果的に、医薬品の見える化が進んでおらず、年間何千億円もの税金が重複処方(手元に薬があるにも関わらず同じ薬を再処方されてしまう)に費やされています。そうした業界全体の課題に一石を投じたいと思っていますし、電子化が進むタイミングを見計らいながら技術と仕組みを準備し続けることが重要です。

仕組みが変われば、薬剤師の役割も変わってきそうです。

岡田:まさしく。薬剤師は現在、薬の納品、棚入れ、ピッキング、会計などの軽作業に近い業務にも多くの時間を取られています。そのため、専門的な知識を生かした薬のアドバイスや残薬管理といった、本来行うべき対人業務になかなか時間を割けていないのが現状です。私たちの物流倉庫の考え方で薬局の対物業務を効率化すれば、薬剤師は患者さんからの薬の相談や飲み合わせの確認など、専門性の高い業務に集中できるようになります。「ただ薬を渡すだけではない、地域の健康に寄与できる薬局」を創ることで、そこで働く薬剤師にとっても、やりがいのある仕事ができる場に変えていきたいと考えています。

医療を提供する側も、提供される患者側も、まずはKiviaqの新しいサービスを使ってみて、その良さを実感してほしいですね。

岡田:ありがとうございます。ぜひ多くの方々に実際にサービスを使っていただきたいです。そして屈託のない意見をいただきながら、スピード感を持ってサービスを改善・発展させ、業界全体の考え方を少しずつ変えていけるようなムーブメントを起こしたいと思っています。

編集後記
病院と薬局の「二重待ち」や、薬の偏在といった課題は、私たち一般の生活者にとって長年「仕方がないもの」として受け入れられてきた。しかし、Kiviaqの挑戦は、その「当たり前」を疑い、テクノロジーと物流の力で解決できることを証明しつつある。
日本が海外に比べて数十年の遅れをとっているという医療DXの分野において、Kiviaqは間違いなく未来の標準を創ろうとしている。「物流倉庫型薬局」構想が実現し、全国に広がることで、薬局は真に人々の健康を支える対人業務のプロフェッショナル集団へと変貌を遂げるだろう。医療の新しい「当たり前」をつくるムーブメントを応援していきたい。

■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。

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