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部活動の資金管理・調達をキャッシュレス化。「BUKATOOL」が拓く、持続可能な地域スポーツの未来【2025年度ICTスタートアップリーグメンバーインタビュー:First Penguins株式会社】

学校の部活動の地域移行が進んでいる。その背景の一つとして指導に当たる教職員の負担の増大が挙げられるが、単に地域クラブへ移すだけでは根本的な問題の解決や、部活動の縮小化の抑止にはつながらないと考えられる。

First Penguins株式会社・代表取締役の川﨑大氏は、総合商社で事業開発に携わりながら立教大学ラグビー部の監督を務めた経験を生かして起業。教育現場、自治体、金融機関を結んで部活動の資金管理・調達、運営を支援するプラットフォーム「BUKATOOL」を開発した。運営費用の負担の軽減、指導者の確保、資金が循環する仕組みを構築することで、どんな家庭の子どもや学生もスポーツを楽しむことができる豊かな環境づくりを目指している。

First Penguins株式会社・代表取締役の川﨑大氏First Penguins株式会社・代表取締役の川﨑大氏

総合商社で25年間にわたり物流事業の開発に従事

ラグビーを始めたきっかけは?

川﨑:父親の仕事の関係で、小学2年生から6年生まではインドネシアで過ごしました。中学校から日本に戻ってきてサッカー部に入ったのですが、全く芽が出なかったので、高校は違うスポーツをやろうと思ったんです。そこでラグビーは高校から始める人が多いから、自分でも勝負できるかなと。やっぱり、どうせやるならレギュラーになりたいですし。ちょうどその頃、“ミスター・ラグビー”こと故・平尾誠二さんが大活躍していたり、テレビドラマの「スクールウォーズ」が流行っていたので、その影響もありましたね。やってみたらすごくハマっちゃって、その後は大学、社会人になってからもクラブチームに入って競技を続けました。

ラグビーのどんなところに魅了されたのですか?

川﨑:ラグビーは1チーム15人で戦いますが、各ポジションに適材適所の輝ける役割があります。また試合中は監督ではなく、選手が自分たちでリアルタイムに判断して戦うので、勝負を仕掛ける面白さなども体感できます。そういった理屈めいた部分もあれば、理屈抜きに体を張れるかどうかも露骨に出る。仲間に救われたり、逆に自分が救ったり。だからやっていてとても奥が深いし、仕事に通じるところもたくさんあるんです。

大学卒業後の就職先に総合商社を志望された動機は?

川﨑:私は同じことを長く続けながら成果を追求するのは向いていないと思っていました。となると、事業分野が限定される職種は向いていないな、と。それよりも、国や業界の枠に捉われずに多様な人々と関わりながら活動できる環境が合っていると思い、結果的には父親も勤務していた総合商社業界を志望して住友商事に入社しました。当時は自分で起業するという発想は全くなかったですね。

住友商事では、どのような事業を担当されていたのでしょう?

川﨑:約25年間にわたり物流事業に携わってきました。1997年に入社した頃の物流は「A地点からB地点へ物を運ぶ」単なる輸送業務でしたが、インターネットやサプライチェーンの浸透とともに、安定供給の仕組みづくりやシステム化、事業化によって高い付加価値を生む業務を求められるようになりました。

例えば、タンザニアの奥地で採れる鉱石を日本で金属に精錬するために、安定して輸送できる仕組みを構築したり。ファイナンスを組み合わせつつサプライチェーンを設計して、テーマパーク向けの食事や土産品の供給体制を整備したり。また、テレビ通販のように放映ごとに商品が変わる販売モデルをシステム化して事業化する取り組みなども行いました。2011年からはインドネシアに駐在し、著しく経済成長する市場とそこで飛躍する現地のスタートアップに触れて刺激を受けながら新規事業開発を担当しました。

指導者の仕事の9割がマネジメント業務

勤続中に、母校である立教大学ラグビー部の監督を引き受けられたんですよね?

川﨑:立大が所属している「関東大学ラグビー対抗戦」のAグループからBグループに降格したタイミングで、32歳の年から4年間務めました。立大のOBには大学卒業後もトップレベルラグビーを続けている人が少ないのですが、私は同僚たちと作ったアマチュアクラブがクラブ日本一になり、そこで現役としてプレーもしていたこともあって、声をかけていただいた感じです。歴代の監督は定年を迎えたOBなど年配の方がほとんどでしたが、自分は年齢も競技者としても選手たちに近い立場にあったので、しっかりコミットしていこうと思いました。

とはいえ、社業との両立はかなり大変だったのでは?

川﨑:そうですね。だから会社で勤務している以外の時間、平日の夜と土日・祝日を全て監督業に当てていました。飲み会も睡眠も削って、自分自身の休みはほぼゼロ。グラウンドに行けなかった日には、明け方3時くらいまでビデオでチェックしたり。家は職場まで10分くらいの場所に住んで、監督をやっているからという理由で仕事は疎かにできないですし、そういう人間は学生たちにもリスペクトされないと思いましたので、会社には絶対に迷惑をかけないように仕事にも必死に取り組みました。監督を続けていく中で、当時の上司や同僚の方にもご理解、ご配慮いただいたことは年々増えてきて、とてもありがたかったです。

ラグビー部の監督業を通して、学生スポーツにおける問題点を痛感されたんですね?

川﨑:大学の体育会の監督というとOB会の手厚い支援を受けた名誉職のように見えますが、実際は全然違っていました。報酬がほとんどないどころか、交通費さえ自腹。その中で、選手を指導したり戦略を立てたりといった、競技そのものに関わることができる時間は全体の1割程度。残りの9割は資金の調達やOBへの協力依頼、物販、マネージャーやスタッフの人心管理、選手の勧誘などのマネジメント業務に費やされます。資金と人手の不足による現場運営の負担が非常に大きいと感じました。

その改善策として、運営を効率化する仕組みづくりやスポンサーとの連携、寄付の仕組み化などのアイデアは持っていましたが、それを実行できる体制や協力者がいなかったため、アイデア止まりの状態になっていました。

そうした経験から「BUKATOOL」が生まれるまでの経緯は?

川﨑:2019年に勤務先の住友商事で実施された「社内起業プログラム 0→1チャレンジ」に「BUKATOOL」で次点に選ばれて事業化する機会をいただくことができたんです。ただし引き受ける部署があればということだったのですが、2、3カ月ほどお願いに回った結果、一つの部署が声をかけてくれて、同年9月から同部署に配属され、本格的に動き出しました。

事業化は順調に進んだのですか?

川﨑:いいえ、全くうまくいきませんでした。商社は既存の事業や外部のパートナーと事業を拡大する流れが本筋にあって、ゼロイチの文化には実は乏しいんですね。今の会社で行っている部活動の物資管理や応援グッズ販売などにしても、POCに至るまでの手続きや社内調整に非常に時間がかかって、サービスの検証まで進まない。そのうちに「やはり難しいんじゃないか」という声が上がったりと、このまま社内で続けていくのは難しくなってきました。でも、自分としては生涯をかけてやりたいと思えるような仕事に挑戦している途中で頓挫する訳にはいかないと。それで会社に「外に出て自分で事業を続けます」と伝えて2021年6月に退職、7月に起業しました。

部費から学費までの会計管理ができるプラットフォーム「BUKATOOL」部費から学費までの会計管理ができるプラットフォーム「BUKATOOL」

NCAAのような学生スポーツエコシステムが目標

起業されて最初に取り組んだことは?

川﨑:部活動の指導者と学校のマッチングサイトを作りまして、プロ選手を育てたようなトップレベルの指導者を集めたかったのですが、期待したほど参加が得られませんでした。よく考えれば、そもそも部活動の現場では指導者に対価を払うという概念がなかったわけですから、そこにわざわざ参加する動機はありませんよね。

私は商社での25年間の勤務経験が起業にプラスにもマイナスにも働いていると思っていて、良かった点は事業の立ち上げ運営に必要な経営全般の経験を持っていること。悪かった点はスタートアップには特に必要な“まっさらな視点”が欠けていたこと。プロダクトアウト的に自分たちがやりたいこと先に決め、勝手に「ニーズがある」と思い込んで、ユーザーの本当にキーバイングファクターとなるインサイトと向き合えてなかったことを反省しました。

2023年2月にリリースされた「BUKATOOL」は、どういったツールになっていますか?

川﨑:マッチングサイトが失敗に終わった後、それまでに約200人の学校の先生方にお話をうかがってきた際のインタビューやメモなどを見返しました。すると、多くの先生が部活動費などの“お金の話”を避ける傾向があり、手元の資金や実際の必要額を把握するのに四苦八苦していることが共通の課題として浮かび上がりました。これは利益を出せていない企業と同様で、資金の管理ができていなければ本来の改善が進みません。

資金管理に特化したプロダクトに切り替えた「BUKATOOL」は、部活動費や校納金、同窓会費、用品の購入などをキャッシュレスで回収し、帳簿に自動反映することができるプラットフォームです。資金管理が整備されることで、先生方の負担が軽減されて時間や余力が生まれ、指導者の派遣やマッチングといった次の段階へとつながっていきます。

全国で65の部活動、約2,500世帯のユーザーに利用されているそうですが、今後はどのように発展させていきますか?

川﨑:ターゲットを部活動に関わる小・中・高・大の約850万人規模まで拡大したいと考えていますが、さらに公立学校の教職員や保護者も含めれば対象は1,000万人近くに達することも見込まれます。現在は部活動向けのツール、Tシャツやキャップなどのグッズ販売を手がけていますが、ゆくゆくは学校全体を対象にした公式プラットフォームを目指しています。そして彼らの活動に共感した個人や企業の寄付・協賛を呼び込む仕組みを作り、資金を学校に循環させることで施設の充実、持続可能な活動を支援します。

ふるさと納税を活用した教育ファイナンスモデルの実証も進んでいますね。

川﨑:静岡県や複数の市と連携して学校や部活動の物販を通じた寄付に加え、返礼品なしのふるさと納税を活用して学習機会やインフラを支える寄付を、今年度中の実証を目指して取り組ませていただいています。共同創業者が藤枝市で用品店を営んでいたご縁から、市内の高校の全てのサッカー部で「BUKATOOL」をご利用いただいておりまして、周辺のエリアでもどんどん実績を積んでおり、部活だけでなく、家庭負担となっている学費会計全般の管理を学校単位で導入いただき始めています。

将来的な目標は、アメリカで巨大市場となっている大学スポーツのようなシステムを実現することだそうですね?

川﨑:アメリカでは、大学スポーツの権利や収益をNCAA(全米大学体育協会)が一元管理しています。物販、協賛、寄付、観戦料などが集約されて年間2兆円規模の市場となり、その中から数千億円が各大学や各コンテンツの現場に還元されているんです。一方、日本では高校野球や箱根駅伝のような全国的に人気の高い競技がありながら、大会の収益が参加校に還元されないことが多い。部活動自体の盛り上がりや制度的な整備の不足が影響していると考えられますが、日本でもNCAAと同様の収益循環を作ることができる可能性は高いとと思っています。

BUKATOOLを利用した実際の寄付金回収画面。リアルタイムにどの年代、どの層が参加しているかという透明性とキャッシュレスの手軽さで寄付を促進。BUKATOOLを利用した実際の寄付金回収画面。リアルタイムにどの年代、どの層が参加しているかという透明性とキャッシュレスの手軽さで寄付を促進。

編集後記
First Penguins株式会社が掲げるビジョンは、いつの時代もユーザーに「自分が子どもの時にも、これがあればよかったのに」と思ってもらえるような学びや指導を提供し続けること。「例えば部活動やFirst Penguinsがなければできなかった世界を、どれだけ生み出せるかが私たちの挑戦だと考えています」と川﨑氏。そうした循環を作り上げることで、経済合理性を担保しつつ、持続的にサービスを展開していくことを目指しているそうです。

■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。

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