コラム
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【インタビュー:佐々木喜徳氏】
成長への最短ルートは「正解」より「修正」 IQより「行動量」。93%の失敗を乗り越える起業家の条件とは

MLBの大谷翔平選手のように、若年層が憧れるスタープレーヤーを「スタートアップビジネス」の世界でも輩出するようにしたい——。

プロ野球やJリーグが新たなスターを生み出し、業界全体のレベルを底上げして、日本代表を世界で戦える強者へと成長させていったように、「ICTスタートアップリーグ」もまた、日本のビジネスシーンにおいて大きな影響力を発揮する未来を目指しています。

なぜ今、スタートアップに「リーグ」が必要なのか。その可能性や拡大に向けた具体策、そして起業家育成の取り組みについて、株式会社ガイアックスの佐々木喜徳氏にお話を伺いました。

■プロフィール

佐々木喜徳

佐々⽊ 喜徳
株式会社ガイアックス 執⾏役員

組み込み系ベンチャーやC向けインターネット関連業務の経験を活かし、フリーランスエンジニアとして独立。 その後、フィールドエンジニアリング会社の役員を経て2007年にガイアックスに参画。スタートアップスタジオ責任者として起業家への事業開発支援や投資判断を担当。スタートアップスタジオ協会を立ち上げ、スタートアップ挑戦者の裾野を広げる社会活動に取り組んでいる。

ICTスタートアップリーグに参画したきっかけは?

佐々木:株式会社ガイアックスで、技術開発部門やスタートアップを生み出す事業「スタートアップスタジオ」の責任者を務めています。創業前の起業家への伴走支援や投資を行い、事業創出をサポートしています。日頃からスタートアップが生まれ、成長していく過程を応援する立場にありますが、本リーグへの参加を通じて、自社の組織とは異なる形で起業家を支援できる点に強く魅力を感じ、参画させていただきました。

スタートアップの成長を加速させるための仕組みとして、従来から「アクセラレーションプログラム」があります。この仕組みにはどのような課題があるとお考えですか?

佐々木:特定の運営会社や自治体による支援に限られるため、得られる知見や支援の幅も限定的になりがちな上に、起業家や事業内容との相性によって成果への結びつきにくさという課題も浮き彫りになっています。対してICTスタートアップリーグの魅力は、エコシステムの第一線で活躍する多様なトップ層が集まっている点です。「どうすればスケールするのか」を共に考える場が用意されており、1対1だけでなく多角的な視点が得られる「バリューアップセッション」は非常にユニークで実践的な取り組みだと感じています。

リーグは現在3期目。継続的な支援についてどのようにお考えですか?

佐々木:起業家にとって、トップ層からの支援はもちろんですが、第一線で戦う起業家同士の情報交換やアドバイスし合う「ピアラーニング(相互学習)」が非常に重要です。 第1~3期と継続的に関わる中で、それぞれの顧客との向き合い方やスケールの知見をお互いに共有し合えるコミュニティとして、大きな意義があると思います。

本リーグに最も期待することは?

佐々木:起業家の「人間ドラマ」が世に伝わることです。普段、彼らの伴走支援をする中で強く感じるのは、社会の課題を解決すべく創業した想いや、事業が成長していく過程には、本当にたくさんのドラマがあることです。しかし、そうした内面のストーリーは、意図して語られない限り、事業の影に隠れてしまいがちです。だからこそ、本リーグで選ばれた起業家たちがタレントのように脚光を浴びることで、彼らの想いや背景にあるドラマが伝わってほしい。それが結果として、事業の知名度やブランド価値の向上にもつながっていく、そんな展開を強く期待しています。

若年層が「起業したい」という思いを抱くためには、社会にどのような働きかけが必要ですか?

佐々木:弊社の起業家教育事業の一環として、若年層の挑戦を支援するための活動として、「起業ゼミ」というアントレプレナーシップ事業を行っています。対象は中学・高校生(高専生)で、彼らが興味津々に目を輝かせてくれるのは、身近なサービスの誕生秘話を話す時です。例えば「LINEを作った人はどんな思いで開発したのか?」などのクイズ形式で、サービスの裏側にあるストーリーや成功理由を分かりやすく伝えると、非常に関心を持ってくれます。若年層と親和性の高いアニメや音楽などのエンタメ要素を取り入れながら発信していくことも有効かもしれません。

実際に起業するとなった際、重要になることは何でしょうか?

佐々木:起業家のマインドとして必要な要素はたくさんありますが、私が10年近く支援してきた中で確信しているのは、「行動できるかどうか」と「行動した後に学び、変えていけるかどうか」の2点が重要だということです。頭の回転の速さや資産も大切ですが、この2つの素質には敵いません。

それは素質の問題でしょうか?

佐々木:そうですね。93%が失敗するという数字がありますが、逆に言えば、いかに早く失敗して次の挑戦に移れるかが勝負です。1回で成功しようとせず、10回、20回と挑戦を繰り返せば、成功確率は格段に上がります。「失敗を問わない行動力」こそが最も重要だと感じています。ICTスタートアップリーグも、もちろん成功事例を出すためのプログラムですが、それ以上に「舞台に立って失敗を経験する」こと自体に大きな意味があると考えています。

リスクを感じて一歩を踏み出せない方に対して、アドバイスはありますか?

佐々木:スタートアップの面白さは、実際にやってみないと伝わりません。サッカーの楽しさが、プレーしてみないと分からないのと同じです。いきなり監督をやったり、エースストライカーを目指したりするのはハードルが高いですよね。まずは関わってみることです。副業で手伝ったり、スタートアップに転職したり、実際に体験してみると「自分でもできそうだ」と思える瞬間が来ます。サッカーの部活に入る前に、休み時間のサッカーで楽しさを知るような感覚で、まずは門戸を叩いてみてほしいですね。

技術的なシーズ(種)を世界に通じるビジネスにするための鍵は何でしょうか?

佐々木:統計的に見て、「プロダクトアウト型(作りたいものありき)」は成功しにくいと言われています。「この技術を使いたい」から入るのではなく、本来は「誰のどんな課題を解決するか」が先にあるべきです。 技術シーズを成功させるには、世の中の深い課題や大きなマーケットと、その技術をどう掛け合わせるかが重要です。

その実現には現在どのような課題がありますか?

佐々木:大きく2つの課題があります。 1つ目は、大学や大企業の特許など多くの知財が公開されておらず、外部の起業家がアクセスできないこと。使われていない「休眠資産」を開放する仕組みが必要です。2つ目は、アカデミアとビジネスの言語の壁です。専門的な論文は、一般的な起業家には難解すぎて読めません。今後はAIなどを活用してこの乖離を埋め、技術と起業家のマッチングを滑らかにしていくことが、実現したいことの一つです。

最後に、スタートアップでの活躍を目指す人に向けてメッセージをお願いします。

佐々木:大きく分けて2つあります。1つ目は、これから起業する方や、まだ資金調達前で事業が立ち上がっていないシード期の方に向けてです。このフェーズで最も重要なのは、やはり「手数」です。「自分の考えた最強のアイデア」ただ1つに固執して、3年間も時間とお金を費やした挙句に失敗する……これほどもったいないことはありません。そうではなく、まずは手足を動かしてみる。そして「何がうまくいかないのか」という不都合な事実に真摯に向き合い、ピボット(方向転換)を繰り返すことで、事業はどんどん進化していきます。「うまくいかないこと」に向き合いながら事業を変えていく、そのプロセスを恐れずに挑んでほしいと心から思っています。
2つ目は、すでに売上も立っており、資金調達も終えて、これから事業をスケールさせていくフェーズの方に向けてです。ここで鍵となるのは、間違いなく「組織」と「人材」です。もちろん、ICTスタートアップリーグのような素晴らしいメンターからのアドバイスも重要ですが、それを実際に形にするのはチームです。スケールさせるためには、自分よりも優秀な人をいかに仲間に引き入れるかが勝負になります。自分にとって「扱いやすい人」ではなく、真に組織を強くしてくれる「右腕」となるような人材を採用すること。そこに時間をかけることを厭わずに、強い組織づくりを頑張ってほしいですね。

■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。

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