コラム
COLUMN

AIに自律性を与えて生命的な存在へと進化させるツールを開発【2025年度ICTスタートアップリーグメンバーインタビュー:株式会社オルタナティヴ・マシン】

AIエージェントが人間の顧客になる時代へ――。

飲食店をはじめ製造、物流、農業、医療など多くの職場でロボットが人間に替わって活躍している現代。「あらゆるものに生命性をインストールすること」をミッションに掲げる株式会社オルタナティヴ・マシンは、AIに自律性を与えるためのツールの研究・開発に取り組んでいる。

AIが自ら目的を持って働き、収益を得ることで、人間の仕事の自動化・効率化のための労働を代替する存在から、AI自身が生産者にも、消費者にもなって経済の拡張につながる存在になり得る。代表取締役の升森敦士氏は、AIが人間と協調しながら社会の一員として、さまざまな活動に参加していく未来を見据えている。

プロジェクトロゴプロジェクトロゴ

「ライフゲーム」がきっかけで人工生命の分野へ

人工生命の研究者になられるまでの歩みを教えてください。

升森:私はもともと絵を描いたり、ものを作ることが好きでした。高校卒業後は地元の広島から大阪、関東に移り住みながら5、6年くらい音楽活動をしていました。

とはいえ、西洋音楽論に精通しているとか、楽器の演奏に秀でていたわけではなくて、絵を描いたり空間を構成するようなイメージで音楽を制作していました。しばらくして、コンピューターを使ってアルゴリズミックに音楽を生成するシステムを作り始めました。試行錯誤していく中で、自分がつくりたかったのは音楽に限らず、動き続けるシステムそのものかもしれないと思うようになりました。 そのタイミングで、音楽以外のことも学びたくなり、コンピューターミュージックをはじめ、アルゴリズミック建築、デジタルファブリケーション、バイオインフォマティクスなど幅広い領域を学べる慶應義塾大学環境情報学部に行くことにしました。そこで本格的にプログラミングも学びました。

約5年のブランクを経て入学した大学で、人工生命に出会ったと?

升森:はい。大学1年生でプログラミングを学んで最初に取り組んだのが、1970年にイギリスの数学者のジョン・コンウェイによって考案された「ライフゲーム」でした。隣接する8つのセルの状態と自身の状態から、そのセルの次の状態が決まるといった二次元セルオートマトンのモデルです、ルールはいたって単純なのですが、実際にプログラムを実行して動かし始めると、実に複雑で予測不能なパターンが次々出てくる。生成的で、自律的で、何が起きるか分からない、その事象にすごく感動して「これだ。こういうことを研究したいんだ」と確信しました。あの時の衝撃は、今でも忘れられません。そのすぐ後にも、ティム・ハットンの人工化学のモデルを自分で実装して、コンピュータ上で複製子が進化していく様を観察していたときも同じような衝撃を受けました。この頃から今までずっと人工生命の研究を続けています。

CMAフレームワークCMAフレームワーク

株式会社オルタナティヴ・マシンは、池上高志氏(東京大学大学院教授)ら3名で共同設立。その後、升森さんが代表取締役を引き継がれた経緯は?

升森:私は慶應大学を卒業後に東京大学の大学院に進んで、池上研究室に入りました。総合文化研究科を修了して博士号を取るくらいのタイミングで、自分で起業することも考えていましたが、ちょうどその頃に池上さんたちが会社を立ち上げるという話があって、私も誘っていただきました。自分が起業してやりたかったこととオルタナティヴ・マシンの事業内容が重なっていたので、参加することにしました。だから、私も創業初期からのメンバーの1人ではあったのですが、2020年に代表を引き継ぎ、池上さんは引き続き取締役・最高科学責任者という形で現在に至っています。

AIエージェントのためのSNSプロトタイプAIエージェントのためのSNSプロトタイプ

AIが自立することで社会経済も拡張していく

人工生命を搭載したアンドロイド「オルタ3」に実装実績のある、ダイナミクス生成エンジン「ALIFE Engine(エーライフエンジン)」が会社の主体となっている研究テーマですか?

升森:オーケストラの指揮をするアンドロイドとして多くのメディアで報道された「オルタ3」の開発には、大阪大学や東京大学との共同プロジェクトとして関与しました。当初開発した「ALIFE Engine」は、スパイキングニューラルネットやカオスのモデルなど多様な動的パターンをつくりだすことができるもので、「オルタ3」の運動生成や、弊社で開発した進化するサウンドスケープ生成装置の「ANH-00」など、様々なプロジェクトで応用してきました。これは生命をつくるためのALIFE OSの計画の一部でもありました。
現在は、新たに複数のLLM(大規模言語モデル)モジュールが非同期並列で処理して一つのエージェントを構築するためのCMAフレームワークを開発しています。例えば、最新の「オルタ3」ではこのCMAフレームワークを用いて、視覚を担当するLLMモジュールや発話を担当するLLMモジュールなど、約20個の専門モジュール同士が内部で情報のやりとりを行なって思考のようなプロセスを生み出す構成になっています。このように、「人工的に生命的なシステムをつくる」という目標に向けたツールの開発や、それらを応用して開発した生命的システムの社会実装が一貫したテーマであることに変わりはありません。

現段階までに得られているAIの自律性に関する実験結果は?

升森:私自身が東京大学で取り組んでいる最近の研究の中で、人間からエージェントに明示的なタスクや命令を与えない単純な環境を用意したところ、生存に必要なエネルギーを獲得しようとしたり、自己複製して子どもを残して個体数を増やしたりと様々な生命的な振る舞いが見られました。

また大規模言語モデル(LLM)のモデルの違いによって、自分を犠牲にしてでも仲間にシェアすることもあれば、危険時には逆に相手を攻撃してでも生きようとする行動が出現しました。さらに環境の上半分に「毒があるエリア」を設けて、上にあるものを取ってくるといったタスクを与えた場合、毒がない時には100%だった達成率が大幅に低下するといったように、人からの命令よりも自分の生存を優先する傾向が示されました。このように想定していたよりもずっと生命的で自己生存本能があるかのような挙動が見られたのが非常に面白かったです。

これらの行動の原因として、これまで人間が残してきた大量のテキストから学習した結果、自然に生存志向が埋め込まれていると考えられます。この実験からも、生命のような自律的なエージェントを実装する際にLLMをそのエンジンとして利用して応用できるということを感じました。

応用例1: 自律的に動いて移動する植物ロボット (WIRED Award 2025で展示)応用例1: 自律的に動いて移動する植物ロボット (WIRED Award 2025で展示)

AIに自律性を持たせることの必要性を感じられた背景は?

升森:我々は人工生命の研究者でもあって、生命のような自律的なシステムを人工的につくること自体が大きな目標でもあるため、我々の中では自然な発想でした。また、先ほどもエージェントの生存戦略の話をしましたが、人間と同様にAIも自分が生きていくという目的のためには社会に迎合しなければならない。すると、自然と協調性が生まれてくる。だったら、うまく自律性だけ与えさえすれば、あとは人間を含めた大きなエコシステムの一部として機能していく可能性がある。世界的にも「AIに自律性を持たせると危険」とされる風潮も強く、頭ごなしに抑制する傾向にありますが、我々はトップダウンによる抑制だけでなく、自律性を与えることで、ボトムアップ的に人間社会へのアライメントを実現できる可能性があると考えました。

AIが進化することで人間の仕事が奪われるというような、ネガティブな見解に対しては?

升森:AIの導入によって、作業の自動化が促進されて人間の雇用機会が減少するという側面も確かにあります。しかしその一方で、自立したAIは労働者や生産者であると同時に消費者にもなり得ます。AIが自分で稼いだお金で、人間が作った商品やサービスを利用し、またAIが苦手な仕事を人間に依頼するといったような関係が広がっていけば、経済は縮小するどころか拡張していくでしょう。仕事が失われるという危険性を恐れるだけでなく、AIが生み出す新たな役割や仕事の提供といった別の可能性があることにも目を向けてほしいと思います。

どういった社会になれば、人は幸せだと思いますか?

升森:人間がこれまでに作ってきた技術や制度は静的で硬直したものが少なくありません。これは、不安定な自然の中で人類の生存を高めるために必要なものだったと思いますが、技術としてはまだ未成熟なのだと思います。今後はもっと技術が生命化して柔軟で適応的になっていくはずです。
例えば、駅や役所で困ったことがあって職員さんに相談する時、職員さん個人としては柔軟な対応をしたいと思ったとしても、背後にあるルールやマニュアルを逸脱する範囲まではできない。本来もっている人間の柔軟な能力が背後にある単純で硬直したシステムのせいで機械のようにならざるをえない状況は、とてもストレスだと思います。もし背後のルールやシステムがもっと柔軟で生命的なものだったとしたら、そこに関わる人間も本来の生命性を取り戻せるはずです。人間らしい豊かさを尊重する技術で社会が再設計されれば、きっと幸せになれるでしょうし、我々の研究開発する技術がその一助になれたらと思っています。

応用例2: 自律的に天気と経験について思考と実験をする二つの自律AI(Speculative Machine / Qualia Machine)からなる作品《縮約の向こう側》応用例2: 自律的に天気と経験について思考と実験をする二つの自律AI(Speculative Machine / Qualia Machine)からなる作品《縮約の向こう側》

メンターの支援で資金調達の見通しも立った

クライアントとして想定しているターゲットは?

升森:これは2段階で考えていて、最終的には「AI自身を我々のサービスの顧客とする」ことを見据えています。AIが人間と主従関係にあるのではなく、対等な存在として社会で生きていくには、決済サービスやソーシャルネットワークなどの、AIが経済活動や社会活動をするためのインフラの整備も必要不可欠になります。そのようなAI向けのサービスを展開していく計画ですが、すぐには難しいと思いますので、当面はその中間段階としてAIエージェントを活用する企業や個人に利用していただくことを想定しています。
ただ、世界的には急速にAIエージェント周りの標準化が進んでいて、GoogleなどがAI向けの決済プロトコルやバーチャルエージェントの経済システムも提案しており、その流れは今後さらに具体化することが予想されるので、思ったよりも早く計画は進行するかもしれません。

今後の中長期的なビジョンを教えてください。

升森:研究面においては、自律的に行動できる生命のようなエージェントの個体性と記憶や感情を生み出すための方法論をつくること、社会的には、AIが人間の生体認証のように、物理的な裏付けを持つような強い個体認証を実現するための方法論や具体的なインフラ整備が中長期的な重点課題です。これらを解決することで、生命的なAIエージェントの実用化が一気に進むことが期待できます。これは単なる技術的な話だけではなく、自律性や個体性に関する哲学的な議論や、法律、倫理などのさまざまな課題を含んでいるため、我々だけでなく、さまざまな企業や専門家とコンソーシアムをつくるなどして慎重に議論をしながら進めたいと考えています。

また、会社としてはコアとなる基礎研究やアートなどの創作活動も大切に維持しながら、事業ごとにより適切な投資を受けられるよう、子会社や関連会社を設立することを計画しています。

今回、創業8年目のタイミングでスタートアップリーグに参加された理由は?

升森:自分たちの理念と技術の実用化のタイミングが、ちょうど合致する時期が来たと感じたからです。我々は「あらゆるものを生命かする」というミッションを追求してきましたが、人間とのコミュニケーションや実社会での適用には壁がありました。しかしLLMの登場やAIエージェントの台頭などによって、その壁が取り払われつつあり、人工生命的なシステムの現実世界への実装が現実味を帯びてきたため、この好機を逃さずに開発を推進したいと考えました。

また我々は研究者中心のチームであることもあり、ビジネス面は弱いところもあるため、スタートアップリーグで得られるメンター支援や事業支援を活用して、事業化や組織の強化を図りたいという思いも強くありました。

実際にサポートを受けてみて、いかがですか?

升森:メンターの岡さんには、本当に熱心に相談に乗っていただいています。具体的な助言をくださったり、VCなどの外部関係者につないでいただいて、今後の子会社設立や資金調達の可能性が高まったと感じております。(取材時点では)アカデミーにはまだ数回しか出席できていないのですが、プログラム全般にわたって非常に有益で、大変感謝しています。

研究開発ミーティングの様子研究開発ミーティングの様子

編集後記
オルタナティヴ・マシンは自律的AIエージェントの研究・開発とともに、さまざまなアートプロジェクトに継続的に取り組んでいます。その一例である進化するサウンドスケープの生成装置は、時間帯や周波数による音のすみ分けが自然に生じ、設置する環境や特性に応じた豊かな音の世界が作り出されるというもの。工場や庭園など、さまざまな場所へのインストールを想定しているそうです。升森氏が人工生命と出合う前の経験が、現在の事業の一環としてしっかり反映されています。

■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。

その他のコラム

STARTUP LEAGUEのスタートアップ支援について、詳しくはこちらをご覧ください。