コラム
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Z世代起業家が描く未来――キャリア直結型AI英会話アプリで、誰もがプロフェッショナルを目指せる時代へ【2025年度ICTスタートアップリーグメンバーインタビュー:株式会社ファボテクノロジーズ】

大学在学中に起業し、若くして自立の道を歩み始めた気鋭の起業家・石塚つばさ氏。キャリアとスキルによって人生は大きく変わる――母子家庭で育ち、母親の苦労を間近で見てきた経験は、石塚氏の人生観に大きな影響を与えた。1社目に起業した株式会社スルミで女性のDX人材育成などに取り組みながら、2024年に立ち上げたのが、AI英会話アプリ「DAIAL」(ダイアル)を事業の軸とするスタートアップ、株式会社ファボテクノロジーズだ。

従来の英語教育の限界を打ち破り、「話せる英語」を誰もが手に入れられる機会を提供したい。そんな強い信念の根底には、自身の苦学生生活の中で感じた「学ぶ機会の平等性」への切実な思いがある。「DAIAL」では業界ごとのビジネスシーンをリアルに再現したフリートーク学習をベースに、学習実績がそのままキャリアアップにつながる独自の仕組みにより、「英会話アプリ×転職支援」という新しいビジネス展開を提案しようとしている。

Z世代のリーダーとして、起業するという選択肢の素晴らしさも伝えたいと語る石塚氏。その活動の原動力、そしてファボテクノロジーズが「DAIAL」で目指す未来について聞いた。

株式会社ファボテクノロジーズ 石塚つばさ氏株式会社ファボテクノロジーズ 石塚つばさ氏

「自分の力で生き抜く」ために起業を決意

石塚さんは2024年の株式会社ファボテクノロジーズ創業の前、大学在学中に既に会社(株式会社スルミ)を立ち上げています。起業することへの思いはあったのでしょうか?

石塚:母子家庭で育ち、会社を経営していた祖父が父親代わりでした。子どもの頃は何不自由ない生活で、中学までは私立の学校に通っていたのですが、祖父の会社の経営状況が悪化したことで生活が一変しました。子育てに専念してきた母には生かせる資格やスキルがなく、あるのは運転免許ぐらいで、タクシードライバーとして働くことになりました。そんな母の苦労を目の当たりにし、「手に職をつけ、生涯続けられる仕事をしないと苦労する」ということを子どもながらに実感しました。

大変ご苦労をされたのですね……。

石塚:私自身も定時制高校に入学し、働きながら大学に進学しました。大学時代には母が体調を崩してしまい、学費の工面だけでなく家計も支えることに。とにかく必死で働きながら勉強し続けた経験は、今の私の活動の原動力となっています。大学4年のときに1社目を起業したのも「母を楽にさせたい」、そして「会社を経営して自分の力で道を切り開ける女性になりたい」という思いがあったからです。

英語の学び方自体を変える! 日本人の「話せない」を解決するAI英会話

株式会社ファボテクノロジーズで、生成AIを活用した英会話アプリ「DAIAL」を開発しようと考えた経緯を教えてください。

石塚:
創業する少し前に、タイのインターナショナルスクールに通っていた帰国子女の友人と英語学習の話題になりました。彼女によると、現地の英語教育は日本とはまったく異なり、まず「話すこと」を中心に学ぶため、自然と会話力が身につくそうです。一方で、日本の義務教育では文法中心の学習が主流で、実際には英語をほとんど話せないまま大人になる人が多い。このギャップに強い違和感を覚えました。
友人は「自分が英語を話せるようになったのは、“話さざるを得ない環境”に身を置いたからで、文法は後からついてきた」と話していました。その体験談を聞き、「学び方そのものを変えれば、日本でももっと英語を話せるようになるのではないか」と感じたことが、DAIALアプリ開発の最初の着想になりました。――海外と日本の教育における「違い」に気付いたことが、事業のきっかけになったのですね。

石塚:私自身、高校生のときに英語をもっとしっかり学びたかったのですが、当時はそれなりの費用がかかる学習サービスしかありませんでした。「やる気があれば誰でも平等に学べるようにしたい」という思いがあり、なおかつ日本人がちゃんと「英語を話せるようになる」ための仕組みを考えたときに、生きた英会話をAIの講師から学ぶアプリを開発することへとつながっていきました。

パーソナライズされたAI講師との業界特化型フリートークで「生きた英語」を学ぶ

あらためて、「DAIAL」のサービス内容を教えてください。

石塚:「DAIAL」はビジネスパーソン向けのAI英会話アプリです。業界ごとのかなり綿密な英会話シチュエーションを自社開発の独自アルゴリズムと生成AIでつくり出すことで、実践的なビジネス英会話を身に付けることができます。創業当初はB2B向けにアプリを開発し、導入企業のニーズに合わせてカスタマイズした有償サービスを展開してきましたが、現在は誰でも使えるB2C向けアプリの2025年中でのリリースを目指して開発しています。

他社の英会話アプリとはどう違うのでしょうか?

石塚:一般的な英会話アプリは、決められたテキストに沿って日常英会話を学習する形式が主だと思います。「DAIAL」ではビジネスシーンに特化して、金融・法律・広告・マーケティングなどの業界ごとに使う専門英語をAIに教え込んであり、会話はフリートークで行います。
例えば、ユーザーが弁護士であれば、法律用語や契約書等の書き方、訴訟などに関する専門知識を備えたAI英語講師を相手に、リアルなシチュエーションを設定して会話ができます。各業界に合わせた、生きたビジネス英会話をきちんと学べることが「DAIAL」の強みです。

具体的には、アプリでどのように英会話を学ぶのでしょうか?

石塚:ユーザーには最初に「いつ、どこで、誰と、何をする」というシチュエーションを指定してもらいます。例えば、「自社商品の海外展開のため、明日、アメリカの協力企業にどの地域をターゲットにするかプレゼンしなければならないミーティングで、不動産会社のクライアントと、東京都の住宅政策について話さなければいけない」のように入力すると、その内容に合わせてカスタマイズされたAI講師が生成され、画面に登場します。なお、このプロンプトは「DAIAL」のプラットフォーム上に蓄積されていき、作成したユーザーが公開していれば、誰でも流用することが可能です。

希望するシチュエーションを細かく指定することで、自分にぴったりの講師が出てくるわけですね。フリートークを行った後はどうなりますか?

石塚:フリートークの会話内容がテキスト化され、ユーザーの英語力を自動採点します。会話でのユーザーのイントネーションの問題や、間違った単語の使用について指摘・修正し、より適切な表現をアドバイスするなど、充実したレポート機能を搭載していることも「DAIAL」の特長の一つです。
B2C向けのアプリでは、毎日5分程度のフリートークと採点・レポート機能が無料プランで利用できます。

実際にアプリを使用したユーザーからは、どのような反響がありましたか?

石塚:「使いやすい」「勉強がすごくしやすくなった」と好評をいただいています。一方で、英会話スクールに通っている人から「スクールでやった内容を復習する用途で使いたい」と言われたことがありました。英会話スクールと連携する視点は持っていなかったので、よい気付きになりました。

アプリの機能やサービスの内容に関して、課題に感じていることはありますか?

専門性の高い業界になればなるほど、AIに学習させる内容が複雑になり、読み込ませる用語の取りこぼしも出てくるので、学習のし直しなどがもう少し必要だと感じています。また、生成AIの進化は目覚ましく、最先端の技術に対応できる有能な開発人材を確保していくことは喫緊の課題ですね。

「DAIAL」における実際の会話内容「DAIAL」における実際の会話内容

英会話アプリが「転職の扉」を開くお手伝いも

B2C向けのアプリの開発で特に力を入れていることはありますか?

石塚:一人ひとりのユーザーが希望するAI講師を登場させるために生成の精度を高めること、そして生成のスピードを上げることです。タイムラグなく会話を始められるようにすることは、ユーザー体験上最も重要だと考えています。開発当初は生成まで1分程度かかっていたのですが、現在は約10秒で生成できるようになりました。
また、B2C向けサービスの大きな特徴の一つとして、ユーザーの転職を支援する機能を付けています。これは、ユーザーが自身の英会話スコアやレポートの情報を求人企業に共有することで、企業からオファーを受け取れるというものです。

英会話アプリと転職支援をつなげるというのは、全く新しい視点ですね。

石塚:ユーザーはアプリを使って英語力を向上させ、さらに採点機能やレポートによって自身の英語力を企業にアピールできます。企業側はそれを見て、一次試験の英語科目の代わりにすることができます。
サービスとして「グローバル人材として働く」までの道筋を用意することで、他社の英会話アプリとは一線を画したものになったと自負しています。

今後さらに追加していこうと考えている機能はありますか?

石塚:アプリを使って一人で行う英語学習はどうしても孤独になりがちなので、ユーザー同士でコミュニケーションを取れる掲示板の機能や、公開されている会話のシチュエーションにコメントを付ける機能などを搭載することを検討しています。アプリ上で交流できる人たちと一緒にコミュニティーを作り上げていきたいと思っています。
また、ディベートができる機能も開発中です。外資系企業では会議が始まるときにアイスブレイク代わりに軽くディベートをすることがあるのですが、アプリ上のユーザー同士をマッチングさせてディベートをしてもらい、ジャッジはAIが行うといった機能です。

サービスの海外展開は考えていますか?

石塚:英語が母国語の外国の方向けに、日本語会話を学べるサービスについては既に開発に入っています。現時点での開発は日本語と英語だけですが、事業が拡大した後に多言語化に対応していきたいと思っています。

英会話アプリ「DAIAL」英会話アプリ「DAIAL」

学ぶ意欲さえあれば、誰もがチャンスをつかめる社会をつくりたい

事業やサービスを通して、どのような社会を実現したいと考えていますか?

石塚:「DAIAL」のサービスの根幹は、人材開発です。金銭的な問題や機会を得られるか否かに関係なく、アプリをダウンロードすることで誰でも始められ、24時間いつでもどこでもスキルを身に付けることができる。それが企業からのオファーなど、チャンスにもつながってくる。意欲があれば、誰でも学ぶ機会やチャンスが平等に得られる、そんな社会をつくることを目指しています。

世界を変えたい、という強い信念を感じます。

石塚:1社目を起業する際は学生だったこともあり、右も左も分からない状態で「起業するなんて……」と最初はかなり躊躇していたんです。でも、「起業したら世界が変わる。あなたは起業して自分の思いを伝えていった方が絶対にいいよ」と激励してもらったことがあり、一歩踏み出すことができました。今でもその言葉を大事にしています。
経験が浅いからこそ失敗もたくさんしますが、それはまた自分の血となり肉となっていくことでしょう。世界を変えたい、自分を変えたいという思いがあるなら、起業すべきだと特に若い世代に伝えたいですね。
今まで不便だと感じていたことや、社会での課題を見つけて、それを解決するために自分でサービス化したものが世の中に受け入れられたら、多分相当「アドレナリン」が出ると思うんですよ。そのような経験を私はもっとしたいし、経験してほしいと思います。

編集後記
石塚氏の起業家としての強い原動力は、苦労を重ねた自身の生い立ちと、そこから生まれた「機会の平等」への熱い思いにある。特に、AI英会話アプリ「DAIAL」を個人の英語学習ツールの枠におさめず、そこで得られる「人材」の情報と学習データをキャリアアップに結びつける発想は、誰でもチャンスをつかめる社会をつくるという起業家精神の結晶だと感じた。「若い人こそ起業すべき」というメッセージは、低成長時代の日本でとかく保守的になりがちな現代の若者に響く力強いエールになるだろう。B2C向け「DAIAL」がリリースされ、多くの人にとって自己変革とキャリアの新しい扉を開く鍵となることを期待したい。

■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。

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