2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、電力の脱炭素化は喫緊のテーマだ。中でも国土に平地が少ない日本では、建物の屋根に太陽光パネルを設置する「屋根置きソーラー」の普及が重要視されている。
これまで、その普及を妨げる大きなハードルとなっていたのが、建物ごとに異なる屋根形状に合わせたパネルレイアウトの設計作業である。それをソフトウェアの力で大幅に効率化し、屋根置きソーラーの導入を推進するスタートアップがある。株式会社ビルオプト代表取締役の薄井光生氏に、その事業ビジョンとICTスタートアップリーグでの挑戦について話を聞いた。
まず、薄井さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。
薄井:東京大学理学部生物情報科学科へ進学し、そこで初めてプログラミングに触れました。卒業後は、求人検索サイト「Indeed」でバックエンド開発に携わり、2022年からはフリーランスとしてスタートアップ企業のSaaS(ソフトウェアのクラウドサービス)開発などに関わってきました。
Indeed時代はどんなお仕事をされていたのでしょうか。
薄井:ユーザーのサイト内行動を解析し、検索結果をリアルタイムに改善するデータ基盤の開発を担当していました。大学時代に一人でコードを書いていた状態と異なり、大人数での開発業務を体験できたのは非常に有意義でした。
その後、フリーランスとしてSaaS開発に携わっていた時期はどんなことをされていたのでしょうか。
薄井:Indeed時代とは逆に、ごく少人数でゼロからプロダクトを作るという環境で働きました。創業メンバーにエンジニアの方がいて、私はそれに続くサポートとして入っていたのですが、その方の姿に、独力でも覚悟を決めて実行すれば一つのプロダクトを作り上げることができるのだなと、大きな刺激を受けました。
そういったさまざまな環境でのエンジニア経験を経て、2024年に株式会社ビルオプトを設立されましたが、創業のきっかけについて教えていただけますか。
薄井:エンジニアとして、すでに完成しているシステムの改良や運用を行っていくだけでなく、新しい価値を創造して世の中に届けたいと感じていました。明確な原体験があっての創業というわけではありませんでしたが、「社会に大きなインパクトを与える仕事」がしたいという思いを抱いていました。
経営者として、社会的なインパクトを与えられるような事業をしたかったという過程で、「脱炭素」に行き着いたのはなぜでしょうか。
薄井:新規サービスを模索していく中で、「サービスへのニーズ」という外的な視点だけでなく、「自分」も軸に据えて選択することの重要さを実感していました。その中で、私たちの世代は何をすべきかと考えたとき、カーボンニュートラルの実現は腰を据えて取り組むべき大きな課題に思えたのです。
さらにその中で、「太陽光発電」の分野を選択された理由は何でしょうか。
薄井:カーボンニュートラルの中核となる「電力の脱炭素化」において、太陽光発電は極めて重要な技術です。しかしながら、現状の導入プロセスにはさまざまな非効率が存在し、そのボトルネック解消に、私の持つソフトウェアエンジニアとしての経験やスキルを活かせると考えました。
サービスの内容について、詳しく教えてください。
薄井:ビルオプトは、屋根置きソーラーの販売プロセスを効率化する業務支援SaaSです。衛星データを活用したパネルレイアウトの設計支援機能や、お客さまへの提案支援機能を備えているのが特徴です。
従来の提案営業スタイルと比較して、どのようなメリットがあるのでしょうか?
薄井:大きく2つあります。1つは、設計プロセスの大幅な効率化です。これまでは、お客さま(施主)からご自宅の建築図面を提供してもらい、メーカー専用のCADソフト(コンピューターを使って設計や製図をデジタルで行うためのソフトウェア)でパネル配置を設計していました。図面がない場合には、現地調査に行って屋根の実寸を測る必要があり、さらにコストがかかります。ビルオプトでは、高解像度の衛星データを活用することで、住所情報だけから対象の住宅を正確に3Dモデリングできます。現地調査や建築図面も不要で、従来は数週間かかることもあった設計プロセスを、3分程度に短縮できるようになります。
対象の住宅を正確にモデリング
パネル配置を3Dで表示もうひとつのメリットはなんでしょうか。
薄井:案件成約率の向上です。ビルオプトを使えば、購入を検討しているお客さまに、導入イメージをスピーディーかつ分かりやすくお伝えすることができます。お客さまの気持ちが冷めてしまう前に具体的な検討に進めるため、購入意思決定を後押しできます。
パネルの設計に加え、導入効果のシミュレーションも効率化されるのですか。
薄井:はい。従来は年間の総発電量から大まかに電気代削減金額を算出することが一般的でした。一方でビルオプトでは、お客さまが現在契約している電気料金プランや過去の電力消費実績に基づいて、より具体的なシミュレーションを行うことができます。お客さまにとってのメリットを正確に伝えることで、成約率向上に繋げています。
発電量予測シミュレーション技術的にさらに進化させたい領域はありますか?
薄井:現在ビルオプトが主に対応しているのは、すでに建物が存在していて衛星データが利用できる既築住宅ですが、今後は新築住宅の領域にも力を入れたいと考えています。建築図面をAIで読み取り、3Dモデルを自動生成する技術開発に現在取り組んでおり、図面から設計まで完結できる未来を目指しています。
今後の市場についての見通しはいかがでしょうか。東京都では、2025年4月から新築住宅への太陽光発電設備の設置が義務化されました。
薄井:国土に平地が少ない日本において、建物の屋根に太陽光パネルを設置することは非常に重要で、今後もさらなる拡大が予想されています。従来の導入プロセスを大きく改善するビルオプトによって市場を活性化させ、東京都や国が目指す目標の達成を実現していければと考えています。
高解像度の衛星写真と3Dデータを活用することで、対象の住宅を正確にモデリングICTスタートアップリーグには、どのような目的で参加されたのですか。
薄井:「ICTスタートアップリーグ」という名称の通り、ソフトウェアやハードウェアに強みを持つ起業家の皆さまと一緒に取り組むことで、自社の事業成長にも大きく寄与するのではないかと考え、参加を決めました。
実際に参加されてみて、いかがでしたか?
薄井:まだあまり活動に参加できていないことがもどかしいのですが、さまざまな領域で事業を営んでいる方々との交流はとても刺激になり、自分たちも頑張らなければいけないという気持ちになります。スタートアップの経営者が抱える資金や人脈の悩みは、事業内容は違えど共通する部分が多いはずなので、今後、そういった話題を相談できるようなつながりを増やしていきたいですね。
将来的な展望についてお聞かせください。
薄井:私たちは「クリーンで安価な電気を日本中に届ける」という目標に取り組んでいます。たとえ環境に優しい電気であっても、高価であれば普及は進みません。販売業務にかかるコスト削減をはじめ、お客さまへの提供価格を下げるためのさまざまなボトルネックを解消していくことで、家計にも、そして地球にも優しい電気の普及に貢献したいと考えています。
編集後記
薄井氏の「ビルオプト」での取り組みは、日本のエネルギーの脱炭素化を推進するのみならず、建築DXを力強く推進するなどさまざまな分野の可能性を拓くもので、ICTスタートアップリーグとも非常に親和性の高い事業だといえる。
今後は「新築」向けサービスを確立した上で、より大規模な発電が期待できる産業施設や野立て(広い平地へのパネル設置)にも対応範囲を広げていくことを構想しているという。クリーンなエネルギーをより安価に提供することで、国内での太陽光発電のさらなる普及を担う薄井氏の挑戦が、私たちの暮らす社会に大きなインパクトを与えてくれることを期待したい。
@startupleaguejp 太陽光発電システム販売支援SaaSの開発を行う、株式会社ビルオプト 薄井光生氏にインタビュー🎤 #スタートアップリーグ #スタートアップ #SaaS
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■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。
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