コラム
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アパレル業界を変革する3Dスキャン――実生活の課題をバーチャルで解決する次世代プラットフォーム【2025年度ICTスタートアップリーグメンバーインタビュー:株式会社VRC】

ECサイトなどでアパレル用品の購入経験がある人なら、洋服や下着が「体型に合わず失敗した」「思ったのと違う」という苦い経験をしたことがあるのではないだろうか。実際に試着してみないと、自分に似合うかどうかの判断が難しいという、実生活における課題をバーチャル技術で解決するスタートアップがある。

3Dスキャンやボディデータ処理などの特許を30件以上保有する株式会社VRCだ。VRCとは「Virtual Reality Creative(バーチャル・リアリティ・クリエイティブ)」の略で、独自開発した3Dスキャン、AIスタイリスト、バーチャル試着などの最先端技術でアパレル業界に変革をもたらそうとしている。

中国出身の代表取締役・謝氏は、日本に来て20年以上。早稲田大学で画像処理や3D技術を学び、サムスングループなどを経て、2013年に独立。VR元年と呼ばれた2016年にVRCを創業した。同社が展開する先進的な次世代サービスについて聞いた。

株式会社VRCメンバー

生活に役立てる3Dプラットフォーム構想

起業のきっかけは?

謝:子どもの頃の夢は科学者でしたが、自身の技術が世の中でどのように使われるのか、試してみたいという思いが募りました。現代社会では、画像をはじめとする情報の記録は2次元が主流です。しかし、私たちの生活は3次元の立体空間に存在しています。将来的に3次元の記録・データ処理などがトレンドになることを見据え、これを核としたマーケティングをはじめました。そこで着目したのが「人体に関わる3次元の情報」です。人体の形状、構造、機能、そして動きといった、奥行きを含む立体的なデータを精密に捉え、これを活用した未来のソリューションを提供したいと思ったのがきっかけです。

具体的にどのようなサービスですか?

謝:容姿や体型などの「人体に関わる3次元情報」を基に、個人の体の状態をタイムリーに把握し、生活に役立てるグローバルなプラットフォームを次世代のインフラとして普及させたいと考えています。たとえば、自身の体型や寸法などの情報を保存し、過去データとの比較により体の変化を瞬時に可視化できます。プライバシーを保護した安全で容易な3D情報の活用を通じて、実社会のさまざまな課題解決に貢献します。

どのように計測するのですか?

謝:自社開発した3Dスキャナーで全身をスキャンします。取得したデータから人体の関節部を検知し、さまざまなモーションデータを合成することで、自動で動く3Dアバターを生成します。バージョンアップを続け、現在は17代目。最新機ではわずか0.2秒という高速で撮影が可能な3Dスキャナーの技術を提供しています。高速スキャンにより、動きのある被写体や、短時間で多くの人を計測する必要がある場合に活用できます。

さまざまな分野で応用できそうですね。どのような業界での利用を見込まれていますか?

謝:主にアパレルとエンターテインメントに注力しています。アパレル分野では、体型に合わせた洋服などのバーチャル試着やAIによるコーディネートの提案など。エンターテインメント分野では、ゲームなどのリアルな3Dアバターやキャラクターモデルの作成です。将来的には、健康フィットネスや健康などでも活用される可能性があります。

Full Bodyスキャナ

3DスキャナーとAIが生み出す次世代ファッションのかたち

ファッション業界から始められたのはなぜ?

謝:グローバル化が進む中で、アパレル業界が抱える大量生産や大量廃棄という深刻な問題に気づいたことがきっかけです。服一着を作るのに大量の水が使われる一方、多くが廃棄されるという現実は、環境や経営、社会に多大な負荷をかけています。この課題解決に貢献したいと思いました。このソリューションより消費者の購買体験を向上させ、ブランドの返品率削減やデータ駆動型商品企画を支援し、アパレル業界の変革を目指しています。

国内外の競合サービスとの違いは何でしょうか?

謝:最大の強みはグローバル的にも珍しい、革新的な3つの核心技術を統合したファッションテックソリューションを提供していることです。具体的には、従来数百万円するスキャナーに対し、数分の一という低コストで業界標準以上の精度を誇る「3D身体スキャン技術」、トレンドやファッションの美学を理解し個性に合わせた提案を行う「AIスタイリスト技術」、独自技術で高品質な試着体験を実現する「バーチャル試着エンジン」です。

現在はどこで運用されていますか?

謝:素敵な出会いがありまして、女性のインナーウェアなどを販売するワコールさんとパートナーとして協業させていただいています。ワコールさんとの協働はビジネス発展のきっかけとなりました。いくつかの実店舗と3D計測サービス「SCANBE(スキャンビー)」に、当社の3Dボディスキャナー技術が導入されています。「わたしに合うブラ診断」などのサービスで、お客さまの体形に合ったブラジャー選びや、骨格タイプ診断などをサポートしています。2025年開催の大阪万博やデジタルイノベーションの総合展CEATECなどでも当該ソリューションが展示しました。

お客さまやお店の販売員さんからの反応はいかがですか?

謝:登録者数は年々増えており、好評をいただいています。最初は下着姿で撮影されることに不安や抵抗をおぼえるお客さまがいましたが、近年ではファッション利用のみならず、体の経年変化を測るツールとして活用されています。3Dデータから驚きを受けるお客さまもいますが、客観的な体型の変化が分かると評価され、リピート利用につながっています。人体データは究極の個人情報ですから、データの活用とプライバシーの保護を両立させるのに大変苦心しました。

エンターテインメント分野ではどのような構想がありますか?

謝:3Dスキャンでお客さま自身を3Dアバター化し、3Dの背景(観光名所や遊園地など)と合成して楽しめるサービスです。小学館さんなどIP(知的財産。ここでは特にマンガ・アニメ関連)を持つ企業との協業により、聖地巡礼の体験(3Dの空間に自分が入り込む)サービスを話し合っているほか、「3Dのプリクラ」も実現できると考えています。

中長期的に事業をどのように成長させていきたいですか?

謝:まずは、アパレル業界の変革を加速させるため、当社が持つ3Dスキャン、AIスタイリスト、バーチャル試着のコア技術を、ブランドが迅速かつ容易に導入できるICTプラットフォームを開発したいです。主な研究開発要素は、機微な3D身体データを安全に管理するシステム、複数ブランドの商品情報を統合するインターフェース、体型と商品の相関を分析するパーソナライズエンジン、そしてブランドの既存アプリ等に機能を組み込むためのシステムです。2つ目は、DX(デジタルトランスフォーメーション)やパーソナライゼーション・サービスに理解のあるファッションブランドさんとのパートナーシップ、協業を進め、選べる服の選択肢を増やしたいです。3つめは体重、体脂肪率などのバイタルデータも取得することでヘルスケア文脈でも活用できる、社会のデジタルインフラになることです。たとえば「マイナンバーカード」のように、あらゆる分野のサービスで利用できるプラットフォームを目指しています。また、マーケットは日本以外のアジア圏のほか北米、ヨーロッパへとグローバル展開していきたいです。

そのためには人材と予算が必要です。どのような人材に来てもらいたいですか?

謝:まずはビジョンを共有できる人。そして「Think Big(大きな夢・野望)」があり、「Dive Deep(物事を深く掘り下げる)」地道な努力をいとわない人と一緒に仕事をしたいです。

ICTスタートアップリーグで成し遂げたいことは?

謝:リーグの支援期間を通じて、当社のコア技術を広く社会実装するための基盤となる「クラウド完結型ICTプラットフォーム」の開発を完了させようと思います。ブランドが既存のアプリやECサイトに当社の機能を容易に組み込めるSDK(ソフトウエア)の開発、導入企業の負担を軽減する「商品情報管理システム」や「自動会計処理システム」の構築を目指します。これにより、技術導入の障壁を劇的に下げ、連携していただくファッションブランドを獲得するという目標を達成したいです。

ICTスタートアップリーグに期待することは?

謝:感謝しかありません。私のような外国人が起業している会社を採択していただけると思っていなくて、ダメ元で申し込みました。金銭的な補助だけでなく、採択されることは名誉なことですし、なによりスタートアップという同じ目標にさまざまな分野の経営者たちが集まって、サークルを形成することは励みになります。他の経営者さんとの交流やバリューアップセッションは貴重な学びの場となっています。

最後に抱負をお願いします。

謝:当社が開発するICTプラットフォームは、アパレルブランドが抱える返品率やサステナビリティといった深刻な課題を解決します。そして、あらゆるブランドが低コストかつ迅速に導入を可能にするための鍵となります。私たちの取り組みが、一企業の成長に留まらず、アパレル産業全体のDXをどう加速させるか、そのポテンシャルを見ていただきたいです。

株式会社VRCが開発する生成系AI一例

編集後記
冷静な表情の奥に、情熱を秘めている謝氏が印象的だった。現代社会の多岐にわたる課題解決と結びつけ、同社が提供する「人体に関わる3次元情報」を次世代のデジタルインフラとして普及させようとする壮大な構想に、強い関心が寄せられる。
ワコールとの協業事例からも、その技術が既に現実の顧客満足度向上に貢献していることが分かる。データ活用とプライバシー保護に細心の注意を払いながら、主にアパレルやエンターテイメントを中心に展開し、将来的にはヘルスケア領域まで、人々の生活を豊かにするプラットフォームを目指している。
AIによる情報過多の時代において、自身の身体情報を客観的に把握し、外部情報とのバランスを取るという現代的な課題意識がある。そうした中で、同社の技術が社会インフラへと飛躍する可能性と、その戦略の進化に今後も注目していきたい。

『株式会社VRC』SNS動画

@startupleaguejp 実生活の課題をバーチャルで解決する次世代プラットフォーム――株式会社VRC・謝 英弟氏にインタビュー🎤 #スタートアップリーグ #スタートアップ ♬ オリジナル楽曲 - スタートアップリーグ情報局【公式】

■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。

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