コラム
COLUMN

【インタビュー:岡本祥治氏】
社会を変えたいという情熱とオンリーワンのストーリーに共感 スタートアップの未来とエコシステム

ICTスタートアップリーグは、単なる起業家支援にとどまらず、年齢・性別・地域・バックグラウンドを問わず、世界に通用するスタートアップを日本から輩出するために、競争と共創の場を提供しています。また「推し活」のような支援や伴走型コミュニティ、地方や海外の多様な人材が交差し、グローバルな視点で社会を変える挑戦を続けています。

ICTスタートアップリーグに運営会合メンバーとして参画されている株式会社みらいワークスの代表取締役社長・岡本祥治さんに、リーグへの思いや、岡本氏が描くスタートアップ支援のビジョン、未来のエコシステムなどについてお話を伺いました。

『応援したくなるスタートアップとは、金銭的な成功だけでなく、「なぜそれをやるに至ったのか」というストーリーを持っていること。』
『自身の経験から課題を見出し、社会を変えたいという情熱を抱く。この人間味あふれるオンリーワンのストーリーに共感できるかどうかが、支援の決め手。』と語った真意に迫ります。

■プロフィール

岡本祥治

岡本 祥治
株式会社みらいワークス 代表取締役社⻑

1976年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。アクセンチュア、ベンチャー企業を経て、47都道府県を旅する過程で「日本を元気にしたい」という思いが強くなり、起業を決意。2012年、みらいワークスを設立し、2017年に東証マザーズ(現・東証グロース)上場を果たす。

みらいワークスさんが形成するさまざまなプロの人材ネットワークは、スタートアップリーグの発展に貢献できると思いますが、どのようにお考えですか?

岡本:当社の人材プラットフォームを活用し、スタートアップの成長を支援していきたいと考えています。リーグの採択者には、副業人材を募集するプラットフォームである「Skill Shift」をいつでも利用できるように開放する予定です。
また、リーグに集まる有望なスタートアップは、プロフェッショナル人材にとっても魅力的な接点です。大半の副業プラットフォームがお金を稼ぐための仕事(ライスワーク)である中、当社は生きがいの仕事(ライフワーク)の副業に注力しており、プロ人材が面白いスタートアップと出会う機会をより多く提供できたら、大変ありがたいことだと感じています。

リーグという形式について、どのようにお考えですか?

岡本:切磋琢磨しあう環境こそがスタートアップを育てます。「良きライバルであり、良き仲間でもある」関係性の経営者たちが一堂に集まるのは貴重です。このリーグには単なる収益性だけでなく、「社会にインパクトを与えよう」という志を持った経営者たちが多い。
経験豊富な審査員の「推し」によって選別されている結果であり、志が高く社会に影響を与えられそうなスタートアップが集まっていますので、年齢やビジネスモデルに関係なく、共に歩める「同期」の関係性を築けることが、このリーグの価値だと考えています。

従来の支援プログラムとの決定的な差異は何ですか?

岡本:最も大きな違いは「運営会合や選考評価委員など関わるメンバーの質と多様性」です。これだけの専門家が集まるプログラムは他にありません。多様なバックグラウンドを持つメンバーがそろい、それぞれの領域の専門家が迅速に質問に答えることができます。
また、バリューアップセッションなどでの忌憚のないフィードバックも特徴です。ストレートで厳しい意見に向き合うことで事業は磨かれるため、スタートアップにとって非常に価値のある場になっています。

世界で活躍する日本のスタートアップに必要な要素は?

岡本:英語力はもちろん必要ですが、それ以上に「さまざまな違いを受け入れる」という視点が極めて重要です。私たちは「日本人の基準」で考えがちです。しかし、世界には人種や国の数だけ常識があり、文化や歴史背景から生まれる、異なる「正義」があります。これらの違いを理解し、相手の立場に立ってサービスやプロダクトを提供できるかが鍵になります。島国育ちの日本人にとって、異なるニーズを拾うことは不得手かもしれませんが、世界で戦うにはこの視点が不可欠です。
もう一つは、「社会を、世界を変えたい」といった、スケールの大きな高い志を持つことです。起業家は、基本的に“目指した山”しか登れません。もし金銭的な成功だけが目標であれば、それを達成した時点で成長は停滞してしまいます。それは、より大きく成長する可能性を秘めているなら、非常にもったいない。長期的な原動力となるモチベーションを維持するために、そして視点を変えるために、このリーグでは、成功した起業家など高みを目指す人々との交流や機会を提供しています。これにより、自身の視野を広げ、目指すべき頂(ゴール)の高さを深く考えてもらいたいと願っています。

岡本さんは価値観の違いの理解をどのように養われたのですか?

岡本:112ヵ国を巡る海外旅行の経験から得ました。特に強く実感したのは日本の良さです。東日本大震災の際に見られた秩序遵守は、世界では考えられないほど特異で素晴らしい点ですし、サービスの質は世界一です。問題は、日本人が自分たちのサービスや文化の素晴らしさ、特異性を十分に把握していないことです。海外へ行く人が少ない(パスポート保有率は全体の約17.5% )ため、視野を広げ、視座を高めるチャンスを減らしています。
だから、若いうちに海外に出て、他の人がしていないさまざまな経験を積むことが、将来の視座を高めます。「とりあえずやってみるか」という姿勢で、自分では選択しない経験(誰かに誘われるなど)を選択するのも良いでしょう。国境を接する隣国同士の歴史的な軋轢などから生まれる多様な価値観に触れることの重要性は高いです。価値観の違う人と交流を増やすことが、日本の良さを再認識し、個人の成長にもつながる鍵となります。

採択者にとって、最も成長を感じる瞬間はどんなときだとお考えですか?

岡本:バリューアップセッションで「ボコボコにされた瞬間」が最も成長につながると考えます。有識者たちの率直で厳しい壁打ちは、非常に良い経験です。言われたことすべてを受け入れる必要はないものの、「こういう見方もある」と真摯に受け止め、次の進化に活かせる人がこのプログラムで成長します。大変な経験を安全な場所で受けられるのが、このリーグの魅力の一つです。

岡本さんもボコボコにされた経験がありますか?

岡本:創業期に投資委員会でプレゼンした際、「優秀じゃないから会社を辞めてフリーランスになるんでしょ」と、ある投資会社の社長(当時)から厳しい言葉をかけられました。その瞬間、「フリーランスのプロフェッショナル人材をマッチングするという当社の事業価値を理解できない人がいるなら、自分の道は間違っていない」と逆に自信につながりました。

創業当時の岡本さんに今の岡本さんが声をかけるとしたら?

岡本:「信じた道を進めよ」と伝えます。ビジョン実現を中心に据えて、最終的に自分の信じた道を進むようになってから楽になったので、もっと早くそちらに向かっておけば良かったと思うからです。

リーグが目指す5年後10年後の未来像と、リーグが目指す成功とは?

岡本:ユニコーン企業創出だけが成功の指標ではなく、「10億円の会社が100社できる」ことで同等のインパクトを目指せると考えています。真の成功は、卒業生の時価総額の総和の最大化と、成功した先輩が後輩を支援しに来るようなエコシステム(循環)が回り始めることです。

日本のスタートアップ・エコシステムの現状と、応援したくなるスタートアップの条件とは?

岡本:10年前に比べてVCやエンジェル投資家が増加し、確実に広がりを見せています。しかし、若い世代には、親の影響から大企業への就職を選ぶなど、保守的な考え方を持つ人がまだ多いと感じています。この状況において、スタートアップには、「こういうカッコイイ世界がある」という可能性を示し、挑戦する文化として社会に広げていくという重要な役割があります。
私たちが応援したいと考えるスタートアップは、「儲かるから」という動機ではなく、「なぜそれをやるに至ったのか」という強いストーリーを持っている人たちです。自身の経験があり、そこに課題を感じ、社会を変えたいという情熱があるかどうか。そのような人間味あふれるオンリーワンのストーリーに共感できるかどうかが、支援や応援の決め手になります。

最後に未来のビジネスプレイヤーに向けて、メッセージをお願いします。

岡本:まずは大企業とスタートアップの両方の世界を見て体感してほしいです。「百聞は一見に如かず」で、両方を見たうえで、自分の道が正しいと確信を持てるかもしれないし、別の世界の方が楽しいと思えるかもしれません。「食わず嫌いはよくない」と伝えたいですね。

■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。

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