「セックスレスの予防」という、ICTスタートアップリーグのなかでもユニークな事業に取り組んでいるのが株式会社Unwindだ。
日本における離婚の主因の一つとして挙げられるのが、性を含む夫婦のコミュニケーション不足であり、セックスレスはその象徴ともいえる。離婚以外にも、セックスレスは少子化や精神的ストレス、不妊治療の長期化といった医療・健康・福祉分野の重要課題と密接に関連しており、実は大きな社会課題なのだ。
一方で日本は文化的に性的な悩みをオープンに話しにくいのが現状。結果的に課題が顕在化しにくく、それは解決の難しさ、あるいは解決に必要なリソースの不足にも結びついている。その意味で、Unwindの事業は非常にチャレンジングともいえるだろう。
そもそも日本は世界的に夫婦間の「セックスレス」の割合が高いといわれる。以前より夫婦間のセックスの頻度も少ないという調査結果もある日本。比較的若い年代の夫婦、あるいは交際期間の長いカップルがセックスレスになるのは、ある意味では不思議ではない。
セックスレスの原因は、仕事や育児など多忙で慢性的な疲労を抱えてしまう、長い時間生活を共にしていくことでパートナーを異性として見られなくなってしまうなど多様だ。海外の夫婦と比較すると、文化的に日本人には手をつなぐ、ハグといったスキンシップの習慣が少ないことも影響しているという。カップルの日常的な身体接触の少なさが、セックスのハードルを上げることにつながるというわけである。
Unwindはそういった実態を踏まえ、カップル間のコミュニケーション不足の原因と解消の対策を、データ解析と研究を中心とするICTの力によって解決しようとしている。ICTスタートアップリーグでの研究テーマは「主体的に生きる人を増やすセクシャルウェルネスプラットフォーム」。セクシャルウェルネスとは「性の健康」。身体的、感情的、精神的、社会的に健康である状態を示す言葉だ。そのプラットフォームとは何か? そしてセックスレス予防などセクシャルウェルネスの分野の事業を始めた経緯などを代表の萩原佳音氏に聞いた。
性生活の悩みは色んな要因が重なって発生します萩原さんがセクシャルウェルネス事業に取り組もうと思った理由とUnwindを起業した経緯を教えていただけますか?
萩原:もともと学生時代から性やセクシャルウェルネスの分野に興味があったことが影響していると思います。私自身が過去、性に関する偏見の目を向けられたり、パートナーとコミュニケーション不足だったり、デリケートゾーンのトラブルを起こしたりと、世の中の女性と同じように性やパートナーシップに悩む経験をしていたので。
実体験が源にあったんですね。
萩原:はい。失恋することで自分の存在意義に疑問を感じ、生きている意味がないと危険を顧みずに新たな出会いに走り、怖い思いをすることもありました。また「避妊してほしい」と言えなくて、妊娠に怯えたまま学校に通っていた時期もあります。こうした経験を経て、性被害や性暴力、ジェンダーギャップに関心を寄せるようになって、卒論のテーマとして選びましたし、将来はそういった問題を扱うジャーナリストになりたいという気持ちが湧いてきました。
なるほど。では、大学卒業後はどのような仕事を目指したのですか?
萩原:最初はマスコミを志望していたのですが、先輩に話を聞くと、自分が取り上げたいテーマを取材できるようになるには10年くらいかかるということでした。また、仕事のために結婚や出産が犠牲になるケースも知って。私はすぐに性の現場のことを知りたかったので、それなら自分から飛び込めばいいと思い、アダルト分野のライブチャット運営会社に就職して、Webディレクターとして働くことにしました。
大胆ですね。まさに「飛び込んだ」印象です。それが現在、ICT分野のサービス事業を扱う素地にもなったのですか?
萩原:そうですね。ただ、学生時代から興味があって簡単なプログラミングなどはできたんです。
飛び込んだ「性の現場」はどうでしたか?
萩原:現場ではパパ活の中で性被害や性感染症の蔓延や、男性の性教育不足による女性パフォーマーへの無理な要求を目の当たりにして、より根本の課題解決を目指したいと感じるようになり、性教育を改めて学ぶきっかけになったと思います。結果的にいろいろなジェンダーの人との対話も増え、私自身のコミュニケーション能力も上がって、相談を受けた性の問題を解決することにもつながりました。日本の性教育を変えたいとSNSでの発信を始めたのもこの時期です。
それがUnwindの起業へもつながっていったのでしょうか。
萩原:その前に、SNSで国内外の性教育の違いを発信していたら、いろいろな相談が来るようになって、カウンセラーとしての活動も始めるなど、発信の幅も広がっていきました。ただ、一方で個人で日本の現状を変えるには限界があるとも感じ始めて……。それで、会社の事業として行えば、社会的に強いインパクトを与えられるのではないか、と考えてUnwindを起業することにしました。
確かにしっかりとビジネスにすれば新たな展開が広がりそうです。
萩原:性に関して真面目に取り組み、性教育の研究をされている方もいますが、活動や研究の内容が固すぎて、若者の関心の範疇に入っていきにくいように感じたことも大きいです。内容をキャッチーにして世間に入っていくにはビジネスの方が良い気がしました。性科学の研究は海外の方が進んでおり、ビジネスとの連携も成功している事例がある。それで、私個人としては研究者として活動することにも興味はあったのですが、ビジネスの方がよりワクワクして面白そうと感じ起業に至りましたね。
性について話し合えない背景には自己肯定感の低さがありますUnwindの事業を教えてください。
萩原:まずは「tawagram」の開発と展開。ICTスタートアップリーグに採択された研究内容の核となる、性生活の希望を伝えられるセクシャルウェルネスアプリです。また、「mahoro」というセクシャルウェルネスブランドでは「CBDルブリカント」を開発、販売しています。女性にホルモンバランスや体調からくる性交痛に左右されず、我慢しない性生活を送ってもらうために、ヒアルロン酸をたっぷり配合した潤滑剤ですね。あとは性の悩みに対応するカウンセリング事業、法人向けにダイバーシティ&インクルージョン研修なども行っています。
多彩ですね。ICTスタートアップリーグとも関連性が高い「tawagram」について、詳しく教えていただけますか?
萩原:「tawagram」は、パートナーとの性生活を充実させるための診断アプリです。いくつかの質問に答えることでタイプ分けし、自分の性生活の傾向を知ることができます。カップルで共有することでお互いを傷つけずに性生活の希望を伝え、解決するためのヒントも分かります。
開発のきっかけや狙いは?
萩原:日本では性に関する悩みを相談できる所が少ないですし、情報を集めようと思っても集められないのが現状でした。また、女性のヘルスケアに取り組んでいる上場企業もありますが、まだまだ性の領域をタブーに感じている人が多く、株主の理解という点でも困難が多い。
海外は相談できる窓口が充実しているのですか?
萩原:欧米は相談できる窓口も多いですね。日本の場合、表向きには言っていませんが、恋愛相談や占いといった場が多少、窓口を担っている印象です。
そういう点ではセクシャルウェルネスの分野はブルーオーシャンにも感じます。
萩原:過去にセクシャルウェルネスに取り組んだスタートアップもあったんです。ただ、私からすると真面目すぎる印象で、資金が続かず消えてしまった。もっとエンタメのように展開した方が社会へと普及させやすいのかもしれないと感じました。それで、みんな性格判断が好きだし、性に関するタブーをワクワクに変え、悩みの解決にも貢献できるのではないかということで思いついたのが「tawagram」なんです。
ユーザー数が20万人を超えていると聞いて驚きました。言いにくいだけで、多くの人が性に対して悩みや関心を抱いているのかもしれませんね。
萩原:口コミで広がっているようなのですが、興味が広がっていることは感じます。
診断はどのように活用してほしいのですか?
萩原:パートナーが喜ぶ愛情表現は人によって違うという研究があります。スキンシップなど触れあいを好む人もいれば、かける言葉により愛情を感じる人もいる。他にもプレゼントや家事の手伝いの方に愛情を強く感じる人も。だから、カップルが互いに好む愛情表現を把握していれば、夫婦関係も上手くいきやすい。性に関しても同じだと思うので、相互理解のために活用してほしいです。
セックスレスについても、単純なスキンシップ不足というよりも、好みの性生活についてカップル間で認識のズレがあることが原因になっているのかもしれませんね。ちなみにタイプ分けはどのように行ったのですか?
萩原:私が欧米の研究結果をベースに、自身のカウンセリング経験や日本の性事情を考慮しながら完成させました。プロトタイプの開発も自分で行いましたし、Unwindでの私は技術開発以外のなんでも屋でもあるんです(苦笑)。
クラウドファンディング実施時には17万人が利用今後の事業展開を教えてください。
萩原:「tawagram」を中心とする事業によって、セクシャルウェルネスに関するデータは、既にかなりの量を蓄積しています。今後はその解析や因果分析に取り組みたい。現状のUnwindで行うには資金的に限界があるので、ICTスタートアップリーグとも連携しながら前進できたらうれしいです。
解析や因果分析の結果をどのように事業に生かす予定ですか?
萩原:日常の運動や生活習慣とセクシャルウェルネスの関係などを解き明かしていきたいです。食生活とも関係ありそうですし、カウンセリングや今現在分かっているデータからは、睡眠時間をあまりとれていない人は性のトラブルが多い印象を受けています。セックスレスにしても、コミュニケーションの傾向やストレスがかかるタイミングなど、どういった条件が揃うとレスになる確率が高まるのか分かると、悩みの解決に役立ちそうです。
そういったことが感覚ではなく、データで裏付けが取れると原因解明や対策の精度も上がりそうです。
萩原:性を科学することはずっと取り組んでいきたいことです。カウンセリングにしても性についての科学的根拠が足りず、悩みを言語化できないことで苦しんでいる人もいる。そんな人に、もしデータ解析から生活や職場、育ってきた環境に原因があると言ってあげられたら救いになるかもしれない。「tawagram」の事業は、最初はBtoC中心かもしれませんが、いずれは健康食品の開発や睡眠の改善など、他のヘルスケア事業とも連携できると考えています。
「tawagram」の進化についてはいかがでしょう?
萩原:「tawagram」をもとに同じタイプ、同じ悩みを持つ人のコミュニティーづくりをすれば、共通課題の解決がしやすくなるかもしれません。また、性を問わず「tawagram」のユーザーから協力者を見つけ、性的欲求を通知するシステムの実験をしてみたいです。今、欲求のデータは安定した生理周期のある女性の情報しかないんです。女性以外の性の人にもバイオリズムや「tawagram」で得たデータをもとに情報を通知してあげたい。
性的欲求の通知はセクシャルウェルネスの向上につながるのですか?
萩原:例えば女性は相手が誰でも肌に触れられるのが嫌な時がある。それを知らずに触れようとしてパートナーが傷つき、レスにつながっていくこともあります。性的欲求が正しく理解できればそういったケースを防げますし、女性も拒否する自分を許すこともできる。性的欲求の通知は、自己理解をしたい人に対して通知をするシステムでもあるんです。
伝えづらいことをパートナーに伝えられる仕組みを構築ICTスタートアップリーグに参加した感想を教えてください。
萩原:Unwindは2年連続の参加となります。拠点は関西ですが、東京にも積極的に足を運び、他の起業家の方の取り組みを生で見られたのは、とても刺激になりました。
具体的に、どんな刺激を受けましたか?
萩原:例えば自分では気づいていなかった事業の可能性。Unwindの事業規模が大きくなれば協業できる領域が広がることを交流の中から知ったり。いろいろと想像が広がりましたね。たまたまかもしれませんが、持続可能な方法を考えてくれる人が多い印象を受けました。
リーグでの出会いがきっかけで新たな事業が生まれるかもしれませんね。
萩原:あとは担当者の方が定期的に行ってくれるミーティングも、今、自分たちに何が必要かを確認できて非常に良かったです。資金面が大きな課題なので、投資家コミュニティーを紹介いただけるのも助かりました。
事業を継続、成長させるうえで資金調達は重要。そこもサポートしてもらえるのはスタートアップにとってありがたいですね。
萩原:はい。今後もきちんとした成果を出せると信用してもらえるような研究結果や事業計画を立てて資金調達を進めたいです。また、成長していくうえで、今後は人材育成も私の課題になると思うので、何を目指して事業に取り組んでいるのか、メンバーにもしっかり伝え切ることを意識していきたいです。
では、最後に今後の夢を教えてください。
萩原:性に関する新たなデータをどんどん世の中に提供して、性が学問として認められたいという思いはあります。そして、Unwindのデータや事業を、セクシャルウェルネスの分野で日本と同じような課題にぶつかっている国に貢献できたらうれしいです。
編集後記
昨年、第一子を出産した萩原さん。子育てを始めて気づいたことも多いそう。
「子どもといっしょに歩いていると、1人では気にならなかった歩きにくい道、移動したくない道があることに気づきます。これまで見えなかった景色が見えるようになりましたね」
仕事にも影響はあったが「困ったことが起こっても、お願いをすれば頼れる人がけっこういることを知りました」と、人の情や助け合いの心をあらためて知る機会となっている。
「子育てをしながら会社を大きくした起業家もたくさんいます。自分もポジティブにそういった事実を広めていきたいですね」
多忙な毎日だが「夫と一緒に子どもと遊ぶこと」がストレス解消にもなっているとのこと。こうした日々がUnwindの事業に役立つ日が来るのかもしれない。
■ICTスタートアップリーグ
総務省による「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機に2023年度からスタートした支援プログラムです。
ICTスタートアップリーグは4つの柱でスタートアップの支援を行います。
①研究開発費 / 伴走支援
最大2,000万円の研究開発費を補助金という形で提供されます。また、伴走支援ではリーグメンバーの選考に携わった選考評価委員は、選考後も寄り添い、成長を促進していく。選考評価委員が“絶対に採択したい”と評価した企業については、事業計画に対するアドバイスや成長機会の提供などを評価委員自身が継続的に支援する、まさに“推し活”的な支援体制が構築されています。
②発掘・育成
リーグメンバーの事業成長を促す学びや出会いの場を提供していきます。
また、これから起業を目指す人の発掘も展開し、裾野の拡大を目指します。
③競争&共創
スポーツリーグのようなポジティブな競争の場となっており、スタートアップはともに学び、切磋琢磨しあうなかで、本当に必要とする分の資金(最大2,000万円)を勝ち取っていく仕組みになっています。また選考評価委員によるセッションなど様々な機会を通じてリーグメンバー同士がコラボレーションして事業を拡大していく共創の場も提供しています。
④発信
リーグメンバーの取り組みをメディアと連携して発信します!事業を多くの人に知ってもらうことで、新たなマッチングとチャンスの場が広がることを目指します。
■関連するWEBサイト
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