コラム
COLUMN

【インタビュー:神田勘太朗氏】
「AI時代に儲けたいなら起業するな」 ダンスへの著作権にすべてを捧げるD.LEAGUE創設者の“狂気と覚悟”

「なぜ、あなたは起業したのか?」
「そのアイデアを、心の底から100%信じていると言い切れるか?」

もし、その答えに一瞬でも迷いがあるなら、この記事を読んでほしい。

今回話を聞いたのは、ダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」を立ち上げ、ダンスの動きそのものに著作権という価値を与えようと「MOTIONBANK」を運営する、株式会社アノマリー代表取締役CEO 神田勘太朗、またの名をカリスマカンタロー。

彼は言う。「自分の頭の中のOSを、他人に移植するんです」。

常識を疑い、構造に挑み、ときにはクレイジーと笑われながら、巨大な熱量で世界を変えようとする一人の起業家。その思考の深淵には、すべての人が学ぶべき、成功への残酷なまでの本質と、折れない心を支える哲学があった。

■プロフィール

神田 勘太朗

神田 勘太朗
株式会社アノマリー 代表取締役CEO

カリスマカンタローこと神田勘太朗氏は、2004年に有限会社アノマリー(現・株式会社アノマリー)を設立し、世界最大級のストリートダンスソロバトル大会「DANCEALIVE」をプロデュース。2021年には世界初のダンス・プロリーグ「D.LEAGUE(Dリーグ)」を創設した。(現・株式会社Dリーグ代表取締役COOも兼務)
現在もなお、ダンス著作権管理プラットフォーム「MOTIONBANK」の開発をはじめ、ダンスを中心とした経済圏の構築を通じて、世界を変えようとしている。

なぜダンサーは稼げないのか? 業界の“不都合な真実”との戦い

まず、神田さんが今取り組んでいる事業について、初めて知る読者のために教えていただけますか?

神田:ダンス業界には、長年の大きな課題があります。それは、ダンスの振り付けや踊りに対して、著作権が正しく機能していないこと。音楽や映画、アニメの世界では当たり前の権利が、ダンスにはない。ダンサーは素晴らしいクリエイティブを生み出しているのに、主役の横で踊る“付随的な存在”として扱われ、その価値が正当に評価されてこなかったんです。

ご自身もダンサーでいらっしゃったからこそ、その課題を痛感されていた。

神田:まさにそうです。僕が起業した2004年当時、例えばK-1のような格闘技の世界では、選手が実力でスターダムを駆け上がっていく道がありました。でもダンスの世界には、それがない。バックダンサーになるか、テレビに稀に取り上げられるか。ダンサーがダンスだけで主人公になれる世界ではなかった。

それで、ご自身でその世界を作ろうと。

神田:誰かが作ってくれるなら、僕もトッププレイヤーを目指したかった。でも、誰もやらない。だったら自分で作るしかない、と。最初は、ダンサーが輝ける場所としてダンスバトルイベント「DANCEALIVE」を立ち上げました。

ただ、創業当時から本当にやりたかったのは、この著作権の問題を解決することでした。でも、当時は「無理だよね」で終わってしまう。だから、その想いは胸に秘めながら、まずはダンスイベントを大きくして、ダンスマーケット自体を広げることに全力を注いできました。

「楽譜」がない世界に著作権を。AIと“舞譜”という発明

そして今、その長年の課題に「MOTIONBANK」というテクノロジーで挑んでいます。これはどういう仕組みなのでしょうか。

神田:当初は、モーションキャプチャの技術が進化すれば、高精細な個人の踊りの癖までデータ化できて、それが証明になるんじゃないかと仮説を立てて、何年も研究しました。でも、ある時から技術が進化しなくなった。そもそも人間の骨格の数は決まっているので、誰が踊ってもデータ上は同じに見えてしまう。そこで、一度は諦めかけたんです。

でも、考え方を変えました。「なぜ音楽には著作権があるんだっけ?」と。それは、“楽譜”があるからだと気づいたんです。ドレミファソラシドという誰でも使える音符を、作曲家が独自の順番で並べて楽譜に落とし込むから、唯一無二の楽曲になる。

これをダンスに応用しよう、と。僕らはダンスの基本ステップ…ヒップホップなら例えば400種類くらいあるんですが、それを一つ一つデータ化して、音符のように並べ替えられるエンジンを作ったんです。ユーザーは、自分で踊れなくても、基本ステップを自由に組み合わせて、オリジナルの振り付け、つまり“舞譜(ぶふ)”を作れる。その組み合わせのデータをブロックチェーンに書き込むことで、「この振り付けの並びは、この人が作った」という証明が可能になる。これがMOTIONBANKの基本的なアイデアです。

まさに、ダンス界における革命ですね。

神田:ええ。音楽の世界でボーカロイドが生まれて、誰もが作曲家になれるようになったのと同じ革命が、ダンスの世界でも起きます。ダンサーじゃない人でも、振付師になれる。まさに、ダンスの解放です。

この仕組みがインフラとして様々なゲーム会社やSNSプラットフォーム内に導入されれば、例えばTikTokでダンスがバズった時に、音楽の作曲家だけでなく、そのダンスの振付師にも収益が分配される未来が来る。そうなれば、企業もクリエイターも、みんながハッピーになるはずなんです。

「脳内にOSを移植せよ」――挑戦者が持つべき“狂気と覚悟”

アイデアはあっても、実現するのは並大抵のことではなかったと思います。特に「コツコツとデータ化し続ける」という地道な作業を支えた原動力は何だったのでしょうか。

神田:まず、クレイジーな人間は全員、自分のイメージが絶対に世界を良くすると、何の裏付けもなくても100%信じ込むところからスタートするんです。

まず、自分自身を信じ込ませる、と。

神田:そうです。そして次に、その信じ込んだイメージを、他人の頭の中に植え付けていく作業が待っています。当然、周りは反対したり、疑ったりしますよね。その人たちが言いそうな反対意見を、あらかじめ全部予測して、全部潰しておくんです。

例えば「AIが進化したら、全部AIがやってくれるんじゃないの?」と言われる。それに対して僕は「人間は自分がやりたいから歌うし、踊りたいから踊る。その根源的な欲求は消えない」と答える。そういう準備を繰り返すほど、自分の頭の中のイメージはさらに強固に、絶対的なものになっていく。

その頭の中のイメージを皆さんに植え付けて、皆さんが「こいつがやってることは間違いないな」と思ったら、また絶対別の人に話をしてくれるじゃないですか。僕はこれを「OSの移植」と呼んでいます。他人の脳にインストールしていくんです。世の中の大きなムーブメントって、全部この「OSの移植」で成り立っているんですよ。

「OSの移植」なかなか刺激的な言葉ですね。

神田:至ってシンプルな話なんです。ダンサーが踊ったクリエイティブが収益を生んだなら、その一部が本人に還元された方が良くないですか?それを実現するために、僕は僕のOSを世界に移植し続けているだけです。

テクノロジーの果てに、人間は「孤独」から逃れるために集う

MOTIONBANKはダンスだけでなく、あらゆる「動き」の知財化、さらにはロボティクスへの応用も見据えているそうですね。テクノロジーを突き詰める一方で、DANCEALIVEやDリーグのようなリアルな場の熱狂も大事にされています。この両立をどうお考えですか?

神田: テクノロジーがどんどん進化して、人間が働く必要がなくなったら、どうなると思いますか? 人間は、暇になるんですよ。そして、暇になった人間が何をするかというと、結局、アナログな場所に戻ってくる。キャンプファイヤーの前に集まって話をしたり、お酒を飲んだり、そして、踊ったりするんです。

テクノロジーの最先端は、アナログなコミュニティに繋がっている。

神田:そういうことです。人間が一番恐れているのは「孤独」なんです。これはある統計でも証明されているとか。そして、解消できるのはコミュニティしかないと考えます。だから、オフラインのコミュニティこそが、実はテクノロジーが目指す一番先にあるものなんです。

僕は、アフリカのセネガルにも会社を作って、現地のダンサーたちと極めてアナログ的な活動をしています。でも、そこで生まれたダンスをMOTIONBANKというテクノロジーでデータ化すれば、それが世界と繋がり、収益を生み、セネガルのダンサーに還元される未来が作れる。アナログとテクノロジー、その両方を同じ熱量で進めることが重要なんです。

未来の起業家たちへ。「なぜ、やるのか?」その答えはあるか

最後に、これから起業を目指す人たちへメッセージをお願いします。

神田:まず、世界を変えたいと本気で思わないなら、起業なんてしない方がいい。お金儲けがしたいだけなら、世の中にはもっと楽な方法がいくらでもあります。わざわざスタートアップという苦しい道を選ぶ必要はない。

スタートアップを始めるなら、まず自分自身に禅問答のように問いかけるべきです。「自分は何を成し遂げたいのか?」「それは、なぜやりたいのか?」「どのような人の役に立つのか?」。その答えを突き詰めていない人が、あまりにも多い。

根源的な問いですね。

神田: 僕はこのダンスというアナログなものとテクノロジーを使って、世界を繋ぎまくりたい。そして、人々がダンスに関わる時間が増えた分だけ、世界は平和になると本気で信じています。

なぜなら、僕の両親は長崎と広島出身で、僕はW被爆3世なんです。小さい頃から聞いていた戦争体験によって学んだことは、争いはなくならないかもしれないという感覚。でも、人々が争う“時間”を、ダンスに熱狂する時間で埋めることはできる。サッカーのワールドカップを見ている間、人は戦争のことを忘れるでしょう? それと同じです。

もちろん、これは壮大なビジョンです。でもその前に、まず目の前のダンサーがダンスで食えていない現実がある。だったら、ダンサーがダンスで食える仕組みを作る。これは僕が一生をかけてやれる仕事だと確信しているから、これだけの熱量でやれるんです。

中途半端な覚悟で始めても、その先には苦しみが待っているだけです。やるなら、自分自身に問い続け、その答えを100%信じ抜くこと。そこから、すべてが始まります。

編集後記
インタビューを終えた後も、神田さんの言葉が頭の中で反響していた。
「OSを移植するんです」。
それは決してスタートアップや起業論を語る際に使用される言葉ではなく、ある種の覚悟や執念、もっと言えば“狂気”を孕んだ響きを持っていた。

20年という歳月をかけて、たった一つの純粋な想い「ダンサーが正当に評価される世界」のために、禅問答のように思考を重ね、あらゆる反対意見を潰し、自らのOSを磨き上げ、世界にインストールしようと試みる。神田さんの話は、情熱的でありながら、恐ろしいほどにロジカルだった。

この記事は、ダンスやスタートアップに興味がある人だけのものではない。
「なぜ、やるのか?」
――神田さんから突きつけられたこの根源的な問いに、あなたはどう答えるだろうか。

■関連するWEBサイト
株式会社アノマリー MOTIONBANK